From:松本泰二
ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョッブス、孫正義、三木谷浩史などの名前を挙げられて、彼らに共通する言葉は何ですかと問われたら、「起業家」という答えに納得しない人はいないと思います。彼らは、Windowsを開発したマイクロソフト、iPhoneなどを開発したアップル、携帯電話事業などのソフトバンクや通販サイトの楽天市場などの「ベンチャー企業」を立ち上げた人々です。
Wikipediaによると、「起業家とは、自ら事業を興す(起業)者をいう。通常、ベンチャー企業を開業する者を指す場合が多い」と説明しています。最初に挙げた人々と彼らの起こした事業や会社は全くWikipediaの説明そのものです。
「ベンチャー企業」とは何でしょうか?
それでは、「ベンチャー企業」とは何でしょうか?デジタル大辞泉の解説によると、「産業構造の転換期に最先端の分野でそれまでなかった新しいビジネスが生まれ新しい市場が作り出される。そんな時代のニーズを背景に独自の技術や製品で急成長していく企業」になります。
WindowsにしてもiPhoneなどにしてもそれらが市場に出されるまでは存在しなかったもので、その後全世界で誰でも使うような時代になるとは想像もできなかったものです。
また、最近は誰でもスマートフォンを持つ時代になり、ソーシャルネットワークのLINE、ソーシャルゲームのグリーやDeNA等のアプリもベンチャー企業で次々と開発されたのです。
時代が遡りますが、戦後間もなく簡単に持ち運びできるトランジスタラジオを発売し、スマートフォンが出る前は通勤電車内でよく見かけたウォークマンを開発したソニーは日本を代表するベンチャー企業で、これを起業した井深大および盛田昭夫は日本を代表する実業家でした。
これまで述べてきた「起業家」と「ベンチャー企業」のイメージは最近のテクノロジーやソフトウェアに結びつけて考えてしまいますが、200年以上も前の1800年頃に、フランスの経済学者で実業家でもあるJ.B.セイが「起業家は、経済的な資源を生産性が低いところから高いところへ、収益が小さなところから大きなところへ移す」と述べており、既に「起業家」という言葉を使っています。起業家という用語は最近のテクノロジーに限られたことではないのです。
さらに注目したいのが、生産性が「低い、高い」あるいは収益性が「小さい、大きい」などの区分をしていますが、対象とする現象を区分する際にその大きさの配分あるいは割合について、次に述べるような興味深い法則性が見い出されています。
働かないアリに意義がある
最近話題になっている本に、「働かないアリに意義がある」(長谷川英祐 著)があります。アリの生態を観察していると、働きアリの7割は休んだりぶらぶらしたりして働かず、兵隊アリは働きアリに対する割合が8割以下の場合にはほとんど仕事をしませんが、8割以上になると働きアリのする仕事を始めるそうです。
そこで、働いているアリだけを集めても、働かなくなるアリが出て同じような割合になるとのことです。逆に、働かないアリだけを集めると、その中から働くアリが同じ割合で出てくるそうです。このような働かないアリの存在はその集団が存続するために必要だというのです。
パレートの法則
同様な現象は、社会学の分野で「20:80の法則」、「ニハチの法則」あるいは「パレートの法則」と呼ばれており、アリの世界を観察することにより法則の実在することが証明されたようなものです。
この法則は100年以上も前にイタリアの経済学者ヴィルフレート・パレートが統計的な分析により発表した経験則で、個人の所得金額とその金額を得ている人数の間にはべき乗の関係式が成立することだそうです。
この法則は、現在では所得配分だけでなく様々な分野で適用できると考えられており、ビジネスの世界でもマーケティング、品質管理、売上げ管理などでも引用され、Wikipediaでは、
「ビジネスにおいて、売上の8割は全顧客の2割が生み出している。よって売上を伸ばすには顧客全員を対象としたサービスを行うよりも、2割の顧客に的を絞ったサービスを行う方が効率的である。」
「商品の売上の8割は、全商品銘柄のうちの2割で生み出している。」
「仕事の成果の8割は、費やした時間全体のうちの2割の時間で生み出している。」
外の様々な事例を挙げています。
したがって、ビジネスにおいて重要なことは、大切な2割に目を向け、これに集中することです。世界最大の投資会社バークシャー・ハサウェイの会長兼CEOであるウォーレン・エドワード・バフェットは数々の名言を残していますが、「やる価値のないことを上手くやっても、まったく意味などない。」と述べています。
ビジネスを成功させるためには、仕事を選別し、取り組むべき2割の仕事に全力を注ぐことです。特に、起業家や経営者のするべき仕事の本質はマーケティングであり、利益を生み出す2割になるのです。
マーケティングでは市場調査から顧客のニーズを把握し、商品の企画・開発、集客、販売に至るまで幅広い活動が行われます。また、企業活動では製造ライン、経理、人事なども有機的に連携する必要があります。
起業家や経営者がなすべきことは、新商品の開発、接客や資金調達などではなく、利益を生み出す2割となる要素を探し出し、そこに労力を集中することです。そうすることにより、パレートの法則に従って8割の売上げがもたらされることになるのです。