世界を驚かせた「ジャパンウェイ」 ラグビー日本代表に見るコンセプトの作り方

ラグビーワールドカップ2015イングランドで日本代表が果たした大活躍は皆さんの記憶に新しいでしょう。世界ランク3位で過去2回の優勝経験を持つ南アフリカと対戦し、34対32で劇的な逆転勝ちを修めるという大金星を挙げたのです。

五郎丸選手のペナルティゴールも話題になりましたが、なんといってもエディ・ジョーンズヘッドコーチの手腕に負うところが大きいことに誰も異論は唱えないでしょう。彼はどのようなコンセプトでこの素晴らしいチームを作ったのでしょうか。そこにビジネスのヒントが隠れています。

 

エディ・ジョーンズの功績

エディ・ジョーンズは1960年生まれ、オーストラリアの出身です。彼が日本代表のヘッドコーチに就任したのは2012年でした。この年はブラジルでサッカーのワールドカップが行われ、日本代表はグループステージで0勝1分2敗と1勝もできずに敗退してしまいます。それもあってエディはワールドカップで実績を上げることを第一に心がけ、強いチーム作りを心がけたのです。

その結果、第一次リーグのプールBで4戦3勝1敗という好成績を上げることができました。勝ち点で劣ったため決勝トーナメントには進めませんでしたが、冒頭で記したように強豪の一画である南アフリカをはじめ、サモア、アメリカ合衆国を撃破したのです。これは日本代表にとって歴史的な成績でした。

 

2011年までに行われたラグビーのワールドカップは7回。その全大会に日本は出場していますが、その戦績は1勝2分21敗という惨憺たるものでした。24回戦って1勝しかできなかったのです。ラグビーはフロックのないスポーツといわれています。弱者はどんなことがあっても強者には勝てないのです。

その日本代表が南アフリカに勝利したのですから世界中が驚いたのも無理はありません。その原動力となったのがエディ・ジョーンズの掲げた「ジャパン・ウェイ」でした。

 

ジャパン・ウェイとは

エディ・ジョーンズのコンセプトであるジャパン・ウェイとはどんなものだったのでしょう?
スポーツの世界ではフィジカルの差が勝敗を分けるといっても過言ではありません。欧米やアフリカ勢に比べて日本人は大きさや体力で明らかに劣ります。長距離を除く陸上競技ではその差が顕著であり、入賞するのがせいぜい、メダルにはとても届かないという状態が続いています。ラグビーも同様です。

加えて、国民性の違いもあります。我が国ではラグビーというスポーツを身近に感じるのは早くても高校時代でしょう。しかも、あの楕円形のボールを手にする機会はほとんどないまま成長します。その点、ラグビーが国技であるニュージーランドでは男の子が産まれたらラグビーボールをプレゼントされるのです。

物心ついた頃からラグビーボールが手の届くところにあるのですから、これはもうどれだけ努力してもその差を埋めるのは不可能だと思ってしまいます。

 

それを覆すべくエディが考えたコンセプト=ジャパン・ウェイにはいくつかの核がありますが、その中心となったのがシェイプと呼ばれる陣形で、これは日本人が得意とする敏捷性と持久力を生かしたものです。世界の強豪国の間ではポッドと呼ばれるエリアを分担した陣形を採用していますが、必ずしもそれにこだわるものではありません。時間帯や状況に応じて使い分けています。

その点、エディはひたすらシェイプを追求しました。そのことでフィジカルの差をカバーできると考えたのです。その結果が3勝1敗という成績でした。

 

コンセプトとしてのジャパン・ウェイ

コンセプトとはなんでしょう? この言葉は非常に漠然としていて、新入社員にこう尋ねられてすぐ明確に答えられる上司は少ないのではないでしょうか。日本語に訳すと「概念」です。これも分かりづらい用語で、ビジネスシーンで用いられることはほとんどありません。99%はコンセプトという単語が使用されます。

ここでラグビー日本代表のコンセプトを思い出してください。ジャパン・ウェイでした。意訳すると「日本流」でしょうか。日本人の得意分野である敏捷性と持久力を生かした戦い方をする。それがコンセプトです。

 

つまり、統一された基本的な概念という意味です。これも日本人ならではの忍耐力を生かして「世界一厳しい」といわれた練習を要求し、強い心を鍛え上げました。勝つことを常に意識させたのです。このジャパン・ウェイは社会現象となり、いろいろ分野でも使われました。

先述したシェィプとは狭い範囲で複数の自軍選手が素早く行動することですが、これはバスケットボールにも共通した動きであり、日本代表は男女とも隼ジャパンという愛称で親しまれていました(現在、女子はアカツキ・ファイブに変更されています)。

 

コンセプトがなかったとしたら

ジャパン・ウェイというコンセプトがなかったとしたら、ラグビー日本代表はどのような戦い方をしたのか、またはどのようなチーム作りをしたのでしょう。単に体力を鍛え、個々のプレーを切磋琢磨するというありきたりのトレーニングを繰り返していたのでしょう。それはそれで意味はあるのでしょうが、果たして南アフリカに勝つことができたでしょうか。3勝1敗という好成績を残すことができたでしょうか。

勝負に「タラ・レバ」は禁物ですが、世界中が驚くほどの戦績を残すのは難しかったのではないかと思われます。

 

皆さんもビジネスで同じようなことをやってはいないでしょうか。コンセプトのない商品作り、店作り、会社作りをやっている人がごまんといます。それでは圧倒的な戦力差がない限り、勝ち抜くのは難しいといわざるを得ないでしょう。

 

コンセプトとは「特徴」

弁当の定番として人気があるのが幕の内弁当です。白飯と副菜を組み合わせたもので、当初は単なる握り飯に対して手をかけた弁当として登場したもののようです。「幕の内」の語源はいろいろあるようですが、江戸時代、芝居を見物していたお客が幕が下りて次にまた上がるまでの「幕間」に食べていたことからこう呼ばれるようになったという説が有力です。

 

新しく弁当販売店を開業したとしましょう。そして、この幕の内弁当を主力にしようとしたとき、お客に対して非常にアピールしづらいことに気づかされます。なにしろ、分かりやすい特徴がないのですから。他の弁当販売店にはない魅力をアピールしようとしたとき、立地、価格、品質でしか差別化できません。

立地とは自宅やオフィスに近い、または乗換駅のすぐ近くにあって便利がいいという意味です。価格とはとにかく安いということです(同じ価格なら量が多い)。品質は確かに差別化できますが、実際に味わったことのない人に訴えるのは難しく、広く知られるようになるまで時間がかかります。

 

その点、他の弁当だと差別化するのがそれほど難しくありません。かつて大ヒットした「のり弁」がそれです。価格も安かったのですが、白飯の全面を海苔で覆い、その下に塩昆布を敷いて白身魚のフライとちくわの天ぷらを添えただけのシンプルながらもバランスの取れたのり弁は多くの人の人気を集めました。

のりタル(タルタルソース)などバリエーションを増やしつついまだにファンは多いようです。このように、コンセプトはアピールしやすい特徴と言い換えてもいいでしょう。

 

スペシャリストかゼネラリストか

ビジネスパーソンを分類する方法の一つに、スペシャリストとゼネラリストがあります。スペシャリストとは一つの分野に非常に優れた人を指します。専門科と言い換えてもいいでしょう。

対して、ゼネラリストはオールラウンドプレーヤーとも称されるように広い範囲の知識があり、管理職としてはこの能力が求められます。

 

かつては、まずスペシャリストとしての道を進み、さまざまな分野で知識や技術を養ってゼネラリストとなるのが一般的でした。しかし、それではさまざまな不都合が生じてきました。管理職になるよりもいつまでも現場でスキルを高めたいという社員が珍しくなくなったのです。

また、年功序列制を採用している企業では管理職がやたら増えるという状況に陥っています。というわけで、現在はスペシャリストが優遇される風潮が高まっています。

 

スペシャリストは転職、再就職の際も有利です。なにができるか、なにが得意かがはっきりしているからです。それに比較して、ゼネラリストははっきりした特徴がありません。再就職のときの面接で、「以前はどんな仕事をしていましたか」と聞かれて、「部長をしていました」では答えになっていません。面接担当者はそんなことを知りたいわけではないからです。しかし、ゼネラリストである当人はそうとしか答えられないのです。

 

以前はスペシャリストとして専門的な知識や技術を有していたのですが、ゼネラリストを長年続けていたせいでその知識・技術は風化してしまったのです。

すでにお分かりのように、スペシャリストはコンセプトが非常にはっきりしています。第三者でもすぐに分かるし、どんな部署に配置すればその能力を発揮できるかも見当がつきます。しかし、ゼネラリストはそうはいきません。管理能力を備えていたとしても、管理される側がどのような職務を担当しているか、どのような人間性なのかをつかまなければいけないからです。そうなるまではそれなりの時間をかけなければならないでしょう。

のり弁のような特徴的な商品であれば分かりやすく、新しくオープンしてもすぐにお客が来店する可能性が高いといえるでしょう。しかし、幕の内弁当ではそのよさを知ってもらえるまで時間がかかります。現実として、幕の内弁当だけを販売する弁当屋など存在しないでしょうから、その例は当てはまらないのですが、コンセプトとはどのようなものか、どうやってコンセプトを作るかという概要は理解できたのではないでしょうか。

 

事業コンセプトと商品コンセプト

これまでは単にコンセプトとだけ記述していました。しかし、これはさまざまなものにつきまといます。いや、すべてに設定するべきだと言い換えましょう。事業にもありますし、商品にも、またブランドにもコンセプトはあるのです。優

先するべきは当然事業であり、次いでブランド、そして商品と続きます。事業コンセプトに対応したブランドコンセプトを設定し、その枠内で商品コンセプトを作り上げ、そして最終的に商品を開発するのです。それぞれのコンセプトが異なると話はややこしくなります。

 

ラグビー日本代表の話に戻しますと、ジャパン・ウェイという事業コンセプトが最初に設定されました。そして、それに沿ってシェイプという戦法が採択されたのです。ポッドでは体が小さいけれども敏捷性に優れた日本人の持ち味を生かすことができないからです。

 

もともと、ポッドとは豆のサヤのことです。フィールドを豆のサヤに見立てて縦に分割し、それぞれに選手を配置する陣形です。そして、自分の担当エリアにボールが回ってきたときだけ動けばいいからボールを早く出せるというメリットがあるのです。

世界ランク1位のニュージーランドが採用している戦法で、国内でもパナソニックなどがこのシステムで戦っています。しかし、選手一人一人に高いスキルが要求されるためエディは世界で戦うには無理があると判断し、全日本代表には取り入れなかったのです。

 

事業コンセプトがなければ勝ち残れない

事業コンセプトと商品コンセプトは違うのか? もちろん違います。

「私の会社は商品を売りたいのだから商品コンセプトがあればいい。事業コンセプトは必要ない」
「美味しい中華料理を一般消費者にリーズナブルな料金で提供している。それが店のコンセプトだから事業コンセプトは必要ない」

 

新しく会社を立ち上げたばかりの経営者、新店をオープンさせたばかりのオーナーの中にはそのように考えている人が少なくありません。状況を考えれば無理もないのですが、前者の場合、事業コンセプトがないまま場当たり的に商品アイテムを増やしていったのでは現在の厳しい時代に勝ち残るのは難しいといわざるを得ません。

 

どんな商品を提供したいのか?

分かりやすい例として、これを読んでいるあなたが一般消費材を開発・販売する会社を立ち上げたとしましょう。往々にして、最初はまず商品ありきで、消費者の共感を得て売れそうなモノがあるから自分で事業を始めたいというパターンでしょう。

 

では、その商品はなぜ売れそうだと思ったのでしょう? 

あなたの経験と情勢・市場分析、および競合他社のバランスを考えたうえでの分析であれば、それはそのまま事業コンセプトの基礎になります。

基本的に、事業コンセプトには三つの要素が必要です。それが2W1Hで、Who(誰に対して)、What(なにを)、How(どうやって)を意味しています。 Whoとはターゲットです。性別・年齢・家族構成・教育レベルなど細かいところまで設定し、具体的な消費者像を仮想して自社の対象とします。これは中華料理店の場合も同様です。

 

Whatはしばしばカン違いされるのですが、商品そのものではありません。その商品を購入したことでどのような満足感を得られるか、です。便利になって時間を節約できる、以前より快適になった、家族全員が楽しめるなどそれはさまざまです。美味しい中華料理であれば「味わい深い料理で空腹感を満たすことができた」ということです。

 

3番目の Howが美味しい味付けです。食材の選択や調味料、価格、それに店舗の雰囲気やサービスも含まれるでしょう。消費材であればその商品の特徴です。従来の商品にはないメリットがあり、それを使うことで満足できるというものです。

 

お客にとって分かりやすい

2W1Hが確定しても、それはすぐコンセプトになるわけではありません。それをお客に分かりやすく表現しなければなりません。「業界では非常に難しいとされていた技術を可能にした我が社の開発陣の成果をぜひお試しください」では分かりやすいとはいえません。具体的なメリットが伝わらないからです。

「これまで使われることのなかった○○産の食材・調味料を使用してまったく新しい味わいを作り上げました。ぜひ自分の舌で確かめてください。しかもお手頃価格です」なら伝わりやすく、それでいてイメージしやすいメッセージになります。具体的で分かりやすい表現でなければいけないのです。

 

再び事業コンセプト

最初に商品ありきというよくあるパターンで進めたため商品コンセプトを対象と移していました。事業コンセプトに戻しましょう。

 

長年修行をして一人前になる目処がついたところで新しく中華料理店をオープンするとします。さて、オーナーであるあなたはどのようなお店を作りたいと考えるのでしょうか? あなたが四川料理で修行したのならそれを生かし、お客が少なくてもいいから本格的な高級四川料理を高い値段で提供するか、それともより多くの人に味わってほしいという願いを込めて庶民的な価格にするか。まずはこのように性格をはっきりすることが必要です。

しかし、立地にもよりますが、人が集まりやすいところには必ず既存の店舗が存在しています。外食店は複数軒あるに違いありません。中華系があるかないか、あったとすればどのような性格の店なのかを知らなければなりません。

 

単に、どのような中華料理を提供しているかを調べるだけではありません。価格帯は、利用している顧客層は、どのような時間帯に利用しているか、誰と来店するかなどなど競合店に関する情報はたくさんあるにこしたことはありません。

 

在来の中華料理店がなかったからといって安心はできません。その商圏は高齢者が多く、脂っこい料理は苦手な人が主体で、これまで何軒もの中華料理店が出店したものの来店客が少なく早々に撤退したということもあり得るのです。

新しく立ち上げる企業・店舗がどのような消費者にどのような商品やサービスを提供すればいいか、それを決定する際に欠かせない作業がポジショニングマップの作成です。

 

ポジショニングマップとは

中華料理店の例を続けます。在来の中華料理店があるエリアに自分が同じ中華料理店を新しくオープンさせるとしたとき、既存店とは異なる性格を持たせるべきです。同じ性格の店では信頼を獲得している既存店の顧客に来店してもらうのは非常に難しいからです。では、どのような店にしてどのような料理を出せばいいか? それを決めるのがポジショニングマップです。

 

マップの作成に当たって最初にやるのは、消費者の購入・来店動機となる大きな要素を二つ決めることです。ここでは価格と専門化という二つの軸を設定してみました。そして、中心でそれぞれの軸を交差させます。横軸が価格で、左に行くほど安く、右は高価になります。縦軸は専門化で、下は一般的、上に行くほど専門化になります。

ご存じのように中華料理は大きく四つに分かれています。北京、上海、広東、四川というものでそれぞれ特徴があり、独自の発展を遂げてきました。しかし、我が国では中華料理というと往々にしてそれらが混在しています。広東の酢豚、北京の餃子や肉まん、四川の麻婆豆腐、担々麺、上海の豚の角煮といった具合です。

 

しかも、日本人の舌に合わせてかなりアレンジされています。そういった日本式の中華料理は下段に位置させます。専門化されていないという理由からです。そして、日本人の好みに合わせてはいてもより本場の味に近づけたものを上段に位置させますが、その場合は「本格○○料理」という性格づけが必要です。○○とは広東〜上海の地名が入ります。四川料理の修行を積んだ例が出ましたから、それを継続してみましょう。

その四川料理を高額で提供すれば右上、リーズナブルな価格なら左上にポイントさせます。日本式の混在メニューで高額ならば右下、低価格の場合は左下です。既存の中華料理店が左下、つまり日本式の中華料理を安い価格で出している場合、他のブロックであれば競合はしないということになります。高級な日本式の中華料理、または高級・リーズナブルな四川料理です。

 

空白地帯ならどこでもいのか

次は空白地帯のどこを選ぶかという段階に入ります。ここで立地条件が大きく影響してきます。都市中心部の繁華街、駅に近いが住宅地が中心、文教地区、ビジネス街、工場エリア、リゾート地の雰囲気がある静かな住宅街といろいろありますが、それによって主要なターゲットの属性が決まります。高級な四川料理は都市中心部でなければあまり期待できないでしょう。

例外はありますが、文教地区や工場街はリーズナブルで量がたっぷりという料理が好まれます。住宅地の駅の近くならリーズナブルな四川料理というのが妥当でしょうか。

 

前述しましたが、高齢者が多い商圏であれば脂っこい料理は好まれないという特性も考えなければなりません。また、高齢者が少なくても低所得者層が中心であれば低価格の日本式中華料理の方が好まれます。

反面、新しく開発されて急速に人口が増えつつあるエリアではさまざまな可能性を秘めています。属性を捕らえにくいというリスクはありますが、大きく飛躍するチャンスもあります。

 

さまざまな購買動機を検討する

中華料理店を例にしたため来店動機を価格と料理の専門化におきましたが、これが一般消費財になると購買動機は一挙に増えます。価格は当然ついて回りますが、品質や操作性、利便性、デザイン、サイズ、耐久性など商品の種類によってさまざまに変化します。それを重要度に従ってポジショニングマップを作成し、自社をどこに位置づけるかを決定してコンセプトの基礎にするのです。

 

多少は高くてもお洒落で使いやすい調理器具を開発する会社。デザインは素朴だけれどリーズナブルで丈夫な家具を製造するメーカー。消費者がこのようなイメージを持ってくれたとしたら事業コンセプトはひとまず成功といっていいでしょう。

とはいえ、外部・内部環境によって企業体質を変えざるを得ない場合もあるでしょう。そのときは迷わず変更するべきです。

 

商品コンセプトを設定する

事業コンセプトが決まればそれに沿って商品コンセプトを設定します。あくまでもコンセプトが優先です。それを間違えないでください。

Aという商品の製造でスタートした企業が幸いにして軌道に乗り、次にBという商品の開発に乗り出したとしましょう。そのとき考えなければならないのは、事業コンセプトに沿っていつつ、なおかつAとは異なるコンセプトを持つ商品だということです。

 

コンセプトを無視して場当たり的に開発し、その結果同じコンセプトを持つ商品ができたとしたらAとBはバッティングし、両方とも売上は落ちてしまいます。

そして、事業コンセプトと同じようにポジショニングマップを作成し、商品をどこに位置づけるかを決定してコンセプトを設定します。

 

最終的に、コンセプトは事業・商品とも消費者に分かりやすい言葉にしなければなりません。ジャパン・ウェイであり、隼ジャパンです。

もっと分かりやすい例を挙げてみましょう。宅急便。これはヤマト運輸です。ヒートテック。ユニクロですね。うまい、安い、早い。おなじみの牛丼の吉野家です。すでに消費者の間に知れ渡っているせいもありますが、一瞬にして商品や事業の特徴が分かりますし、それでいてユニークな表現です。

他の商品や業者と間違えることもありません。この段階ではかなり難易度が高くなりますが、さまざまなビジネス書やサイトで解説しています。ぜひ挑戦してみてください。

 

コンセプトを決定するSWOT分析

事業コンセプトにしても商品コンセプトにしても、ポジショニングマップなどを参考にして候補をいくつも挙げていきます。そして、最終的に一つに絞り込むわけですが、この作業は簡単ではありません。それを強力にサポートしてくれるのがSWOT分析です。

これはStrength(利点・強み)、Weakness(弱点)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の頭文字を取ったもので、スウォット分析と呼ばれています。SとWは内部の事情であり、O、Tは外部環境になります。

 

まずは自社におけるそれぞれの要素を洗い出すのですが、これは非常に広い分野に渡るため時間と手間がかかります。それを避けるにはそれぞれの項目をある程度予測して、それに関連したものだけをチェックしていきます。いうまでもなく、予測するにはその分野の知識や経験が必要です。その能力がない人に予測を担当するわけにはいきません。

 

このSWOT分析は情報を集める作業が大変なため、往々にしてそれだけで済ませてしまわれがちですが、その時点でストップしたのでは分析したことになりません。そこで、次のステップとしてクロスSWOTという作業に移ります。これはSとO、SとT、WとO、WとTの関係を洗い出すものです。具体的には次のような内容を検討します。

強みを発揮する機会とはどんな場合か、またその方法は。
強みを活用して脅威を回避する方法はなにか。
弱みのため機会を見逃す可能性がある場合、それを回避するには。
弱みと脅威のため最悪の状況となるのを避ける方法とは。

最終的な目的は強みをいかに発揮してチャンスをつかみ、シェアを拡大するところにあります。そのためのコンセプトの設定なのです。

 

ここではコンセプトがテーマであるためSWOT分析についての詳しい説明は省略させていただきますが、もっと知りたい場合は専門書やサイトを参考してみてください。

ただ、SWOT分析は絶対的なものではないことを知っておいてください。

 

理由その一は模範的な結果が出やすいことです。競合他社も同じことをやっていますから、その答えが同じだと差別化にはつながりません。情報集めの段階でいかにユニークな要素を抽出するか、また分析時にいかに独創的な方策を見つけ出すかが大きな意味を持ってきます。

理由その二は、弱みが必ずしも絶対的なものではないということです。

 

強い・弱いは総体的なもの

日本人は欧米人に比べて体が小さく、フィジカルな面では明らかに劣っています。では、これはスポーツの世界では絶対的な弱みなのでしょうか? 答えは否です。先般行われたリオ五輪で日本は金メダル12、銀メダル8、銅メダル21個を獲得しました。合計41個はこれまでの最高で、各国順位としては7位という好成績でした。特に、柔道は12、レスリングと競泳ではともに7個のメダルを得ています。これをもって弱みと判断するのは無理というものです。

確かに、ラグビーやアイスホッケーのように体重に差がない格闘技(といっていいのかはわかりませんが)では弱みといえるでしょう。しかし、それ以外の競技では俊敏さを生かすことが可能です。その結果が41個というメダルの数に表れています。

 

ビジネスにおいてもこれと同様のことがいえます。規模が小さく従業員の数が少ないのは絶対的な弱みではありません。逆の見方をすれば小回りが利き、状況に対して臨機応変に対応できます。「他の部署の意見も聞いてみませんと……」などと即答をためらう必要はないのです。

逆に、商品が安いという事実は必ずしも強みにはなり得ません。価格が安くて庶民的な牛丼はなるほど人気はあります。が、女性が一人で来店するには二の足を踏みます。一人でゆっくりとくつろぎたいという場合も足を向けないでしょう。このように、強みや弱みは顧客層によって変化します。競合他社の存在も大きく関係します。他社がさらに強ければ強みは弱みになり、他社が弱ければこちらの弱みは強みになるのです。

 

リフレーミングすれば弱みが強みになる

判断の基準としていろいろなところで例として持ち出される話に「コップの水」があります。コップに半分残った水を「もう半分しか残っていない」と悲観的に判断するか、それとも「まだ半分も残っている」と楽観的に見るかというものです。

自社の弱点と思っている部分は明らかに悲観的な見方です。しかし、観点を変えると「まだ半分もある」という強みになる可能性があります。もちろん、自分で思うだけではなんの役にも立ちません。その弱みを強みに変え、消費者に訴える、つまりコンセプトを設定するのです。

 

これをリフレーミングといいます。フレーミングとは枠組みという意味ですが、それまで押し込んでいた枠を取り払い、新たな枠に組み込むと解釈すればいいでしょう。もともとは家族を対象として心理療法として開発されました。同じ物事でも人によって捕らえ方が異なることを利用して、マイナスと思っていた事象を前向きに考えるようにするものです。
一度はポジショニングしたものを状況の変化によってもう一度ポジショニングし直すことをリポジショニングといいますが、それと似たところがあります。

 

再びスポーツ界に目を向けてみましょう。体が小さくて体力がないからスポーツを諦めている子どもがいたとしたら、ぜひリフレーミングすることをお勧めします。身長が低くても活躍できるスポーツは確実に存在しています。体操やハンドボールはその典型です。重量挙げの選手も総体的に小柄です(筋肉はたっぷりついていますが)。

 

天才的なドリブラーと称されるサッカー選手は大半が小柄です。高身長の選手より俊敏だし、目線が地面に近いと体感速度が速いためといわれています。プロスポーツの分野では競馬のジョッキーやモーターボートの選手がいます。彼らは体重が制限されているから小柄でないと務まらないのです。

人里離れた山奥でも道路が整備されていれば顧客はやって来ます。1時間のドライブを苦にしないほどの魅力ある商品であれば立地条件の悪さは弱みにならなくなります。かえって自然を満喫できるという強みにもなるのです。それを踏まえて、もう一度コンセプトを見直してみませんか?

 

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