From:松本泰二
あまり大きくない会社であってもお客さんである顧客の目に留まり、そして記憶に残る会社となるためには、何らかの面において特筆する部分があることが必要になります。ここならばどこにも負けない、ここならばあの会社しかない。ある意味、そう顧客に思わせられれば会社としては成功です。
今回はそんな分野を獲得するためにどうしたらよいのか、その方法論と自社の顧客をどう設定していくのかについてお話していこうと思います。
顧客の設定とは
まずは、顧客の設定とはどういうものなのでしょう。
会社とは規模の大小に限らず、または特に立ち上げたばかりの小さな会社なら尚更、会社内のことはまだしっかりと定まっていない状態だといえます。その整理できていない状態からのスタートにおいて、最初に明らかにしていくことができるのは顧客に関してなのです。
一般的に考えていくと、普通は商品開発や営業についてを考えて顧客設定は後付けであったり考えていくのが後回しになってしまいがちなのですが、実は会社の立ち上げとほぼ同時期に考えるべきこととして大事なことがこの顧客の設定なのです。
顧客の設定をするためには、7つの大事なポイントを押さえておくことが重要です。それを何回かに分けて一つ一つ見ていきましょう。
「ナンバーワン戦略」
まず1つ目が「ナンバーワン戦略」というものです。
これは一体どういうものなのかというと、私たち経営者が行う経営活動とは、突き詰めて考えればお客さんである顧客との関係をいかに構築するのかということに終止します。そのため、顧客との関係を上手く築き上げることができれば経営は上手く回り、利益もきちんとでるのです。
逆に、顧客との関係を上手く築き上げることができなければ経営は回らず、利益もどんどん落ち込んでいきます。そのように考えた際に、更に顧客との関係性を考えた上で、どのような顧客を会社として設定したらよいのかを考えることは非常に重要です。その顧客設定における1つの指標として挙げられるのが、
「ファンを作ること」
です。提供者と受容者というような会社と顧客の関係だけではなく、言ってしまえば自分の会社の「ファン」となってくれるようなお客さんを手に入れる、作っていくことです。
会社の経営は顧客との関係を上手く築き上げられるかどうかである、というお話は先程したばかりですが、最終的に上手く経営をまわしていこうと考えた時には会社の「ファン」を作ることがとても大切なのです。
純粋にあなたの会社が好きで、応援したくて、一緒に頑張っていきたいと思ってくれるお客さんを手に入れられたなら、それはあなたの会社にとって宝のような存在です。更に、そんなお客さんと良い関係性を構築したまま営業を上手く行っていくことによって、次に繋がるものとして、「客が客を呼ぶ」状況になっていくことが考えられます。
これはとても望ましく、また喜ばしいことで、自分たち以上にお客さん自身が自分たちの会社の宣伝や営業をしてくれる存在になるのです。そういったお客さんを手に入れる、そういったお客さんを生み出すことのできる、そういった経営、顧客設定を目指してください。
あなたの会社の商品を好んで買い、使い、何度も手に取ってくれるような「あなたの会社のファン」でありつつも、それだけにとどまらずお客さんを連れてきて、紹介してくれ、その人もあなたの会社のファンにしてくれる・・・
そんなお客さんの存在が会社にとって何よりも心強く、力強いものになります。
今現在社会において発展し、優秀な会社と呼ばれる企業を端から見ていくと、実はどの企業にもファンがきちんとついています。そしてそういった企業を支えているのもやはりその「ファン」の存在です。
例を挙げるならディズニーであったりアップルコンピュータであったり、スターバックスコーヒーであったりそれらの企業のことを考えると、お客さんたちは並んででもそれらの企業の製品を得ようとします。
そうしたお客さんはそれらの企業の「ファン」以外の何者でもありません。世の中で大企業と言われる会社はやはりそれだけ多くの「ファン」を抱えているのです。
人の記憶できる分量は限定されている
さて、そうして私たちが自分の会社の「ファン」を作っていこう、お客さん、顧客とそういった関係性を作っていこうとしたときにまず考えなければならないのは、「人の記憶できる分量は限定されている」ということです。
これは一体どういうことか、と思う方は多いかと思いますが、単純に自分がお客さんの立場になったときのことを考えてみればいいのです。つまりどういうことかというと、お客さんというのは基本的にその会社のことを逐一覚えてはいない、ということなのです。まずそれを基本として考えておかなければなりません。
加えて、現代社会を見てみるとよく分かりますが、私たちの周りにはあまりに多くの製品であふれています。日頃よく見知っている製品ですら、その製品が「どこ製か」まで考える人は多くありません。消費者にとっても、いちいち覚えていられないのです。なにせ、あまりに多すぎますから。
それを考えると、どうしてもその分野でもっとも活躍し、一番利益を上げている、一番有名な会社しか基本的には覚えられないのです。
例を挙げてみましょう。
「ナンバーツーの悲哀」という言葉があります。日本では二番手、なんてよく言いますが、なににつけ「二番目」というものはなかなか記憶に残らないものなのです。
日本で一番高い山、と訊かれたらよほど物を知らない人でなければ「富士山」と即答できるでしょう。しかし、「日本で二番目に高い山」は?
日本で一番大きい湖、と訊かれたらよほど物を知らない人でなければ「琵琶湖」と即答できるでしょう。しかし、「日本で二番目に大きい湖」は?
日本で一番大きい都道府県、と訊かれたらよほど物を知らない人でなければ「北海道」と即答できるでしょう。しかし、「日本で二番目に大きい都道府県」は?
そのどれもを正確に答えられる人がどの程度いるでしょうか。ビジネスの話で言えば、マクドナルドが一番最初に日本で店舗を展開したのは銀座、というのは有名な話ですが、それでは「二店舗目」はどこなのでしょう。誰か覚えていますか?
日本で二番目に大きい山は北岳です。日本で二番目に大きい湖は霞ヶ浦です。日本で二番目に大きい都道府県は岩手県です。マクドナルドが日本で二店舗目を展開したのは代々木です。しかし、これらのことをさっと言える人がどの程度いるというのでしょう。仮にいたとして、ほんの一握りの人であることは間違いないです。
これらの例からもよく分かるとおり、人間というのは「一番」というものしか基本的には記憶に残らないのです。我々ですらそうなのですから、普通の人たち、私たちがお客さんとして関わっていく人たちなんかはなおさらそうです。つまり私たちが考えなければならないのは、その分野、部門でどうにかして一番になることなのです。そうしなければまず覚えてもらうことすらできません。
ファンを作るためにはまず私たちの存在を知ってもらい、覚えてもらわなければ話になりません。まず一番にならなければ覚えてもらえない、ということを基本として考えておかないと、思うような経営をすることは不可能です。
あれをやったから、これをやっているから、きっとお客さんは自分たちのことを覚えてくれているだろう、とは考えてはいけないのです。絶対にお客さんは自分たちのことなんて忘れている、と思わなければならないのです。
ですから、まずはその分野で一番になるということがお客さんに自分たちのことを覚えてもらうためには必要なことなのです。しかし、その分野で一番になるということは必ずしも他の会社と競争して勝ち上がらなければならないということではありません。
簡単にその分野で一番になる、2つの方法
1つは、範囲を狭めるということです。
例を挙げるならば、あなたがラーメン店を経営していたとしましょう。範囲を狭めるとは、あなたは決して日本で最もおいしいラーメン店になる必要はないということなのです。あなたは店をかまえたその町の中、その市の中で一番おいしいという店になる。
これはお客さんの客層にもいえることで、全ての年代と性別のお客さんに一番だと思ってもらう必要はないのです。30代前半の、この近くで働いている独身のOLさんの中で一番のお店になる、というような。範囲を細かくしていけばしていくほど、あなたのお店が一番になる可能性は高まっていくのです。
もう1つ例を挙げるのであれば、原宿にとあるアパレル店があります。
そのお店は男性用の下着の専門店なのです。女性用下着専門店はどこにでもありますが、男性用の下着専門で取り扱う、そんな店舗は日本中探してもほとんどありませんよね。だからこそ一番になれる。だからこそお客さんの記憶に残る。そういうことなのです。
そういう存在になると記憶に残るということが分かっていただけたでしょうか。つまり、範囲を広く取って事業を行う必要はないのです。みなさんが起業をする際によくやりがちな、けれど大きな間違いは「大多数に選んでもらおう」と考えて経営していくことです。
八方美人、という言葉がまさに似合う、そんな経営です。しかし、八方美人であればあるほど自社の商品のお客さんに対する力はどんどん衰えていきます。それよりは、「この場所のこの人にだけ」向けた商品であるほうが遥かに強い力を持っています。狭い範囲に焦点を当てて事業を展開していく。これはどの経営においてもいえることです。
もし仮にそれができない場合も、「一番になりたい」「一番になることを目指している」といった宣言だけでもいいのです。まず、自分がそういったことを積極的にアピールしていけるのかどうか。自分が積極的にならなければお客さんに選んでももらえません。
お客さんから選ばれるのをただ待っているだけではいつまでも選ばれるはずが無いのです。覚えてもらうことと同時に、私たちにとって大切なことは「忘れられない」ことなのです。
例を挙げましょう。
これはロングビーチにあるステーキ店のお話です。この店に入って天井を見上げると何かが沢山ぶら下がっているのが見えます。一見すると何がぶら下がっているのか分からないのですが、実はそれはネクタイなのです。では何故ネクタイが天井からぶら下がっているのかというと、このステーキ店に行く際にネクタイを締めていってしまうと入り口でそのネクタイ、切られてしまうんです。
そしてそのネクタイが天井からぶら下げられる。そんなことになった理由は、もう何十年も前の話ですがここの店主の方が「ステーキなんて、ネクタイをぶら下げて食べにくるようなところじゃない」といい始め、こういった面白いことを始めたんです。それをお客さんたちが面白がって、このステーキ店に来る際には自分の要らないネクタイをしていってわざと切られに行く。
そういった特別な体験であったり経験であったりは、記憶から消えませんよね。忘れられないんです。
そのような面白いことであったり特別な体験を提供できないか、ということはいつでも考えられることです。それこそ創業時であったり、企業を立ち上げるその時でも考えて実行することが可能です。企業を立ち上げたばかりの経営者や会社は弱者なのです。テレビで何度もCMを流すほどの資金も余裕もありません。ですから、そういった「忘れられない」体験を提供することが大事なのです。
いくつか例を挙げましょう。
先程の原宿の男性用下着店は変なマネキンを作って視覚的に忘れられないようにさせています。
花屋さんで、店頭に芝生でできた車が置いてあったら目を引きますよね。イベント会社のラッピングカーが町中を面白いことをスピーカーで流しながら毎日走っているのも。
店舗をわざと傾けて作るというお店もあります。この店は料理の味ではなくて「店が傾いている」という理由で、その町に住んでいる人で知らない人はいないというほどの知名度です。ここで私が言いたいのは、
全ては「お客さんの記憶に残す」ことの大切さ。
どんな手を使ってでも、忘れさせないという執念が必要なのです。忘れてしまう、ということはすなわち1度自分たちの商品にお金を払ってもらったにもかかわらずもう2度とお金を払ってくれなくなる可能性があるということなのです。特に飲食店ではそれが顕著です。
みなさんにも、「一回行っておいしかったと思ったのにそのお店の名前を忘れてしまって2度といかなかった」なんて経験が誰しもあるのではないでしょうか。よかったのに、忘れてしまっていた。機会があればと思っているうちにその存在を忘れてしまっていた。それ以上に勿体無いことはありません。
なんとしてでもリピーターと呼ばれるような人たちは手にしておきたいのです。メールアドレスをアンケート用紙に書いてもらって、こちらからメールをするであるとか1ヶ月以内にもう一度来てくれたら割引をしますというチケットを渡すとか、そういった手段を使って、お客さんに私たちのことを忘れさせないようにすることが大切なのです。