商品の売れ行きを左右するネーミングの作り方!

商品作成

From:松本泰二

商品が売れるか売れないかを決定づける大きな要素の一つとしてネーミングがあります。特に、一般消費財の分野ではこのネーミング次第でヒットするかしないかが決まるといってよく、商品を開発・販売する企業担当部署では日夜頭を悩ましています。

とはいえ、大企業では専門チームがさまざまな形で研究していますから、ここでは中小企業の皆さんの役に立ついくつかの参考事例を紹介してみましょう。

 

商品価値が分かりやすいネーミング

ネーミングするうえでまず大切にしないといけないのが、その商品がどんなものなのか、どんな特徴があるのかが分かりやすいことです。一度聞いただけではどんなものなのか分からない商品だと、繰り返し繰り返しアピールしなければなりません。消費者に覚えてもらうまで訴え続けなければならず、巨額の経費がかかります。

 

一方、分かりやすいネーミングではすぐ覚えてくれます。

その典型的な例を薬に見ることができます。いくつか商品名を挙げてみましょう。のどぬ~る、熱さまシート、キズアワワ、鼻スースースティック、虫コナーズ。いかがですか? 初めて聞いた商品名でもどんな効能があるかすぐ分かるでしょう?

 

生活用品としては次のようなものもあります。

チン!してふくだけ、しみとり~な、ポット洗浄中、髪の毛集めてポイ、……。本当にこんな商品があるの? と思わず疑いたくなるかもしれませんが、間違いなく実在しています。

商品ではなく、アピールポイントを社名・店名にしたものもあります。今ではコンビニの代表といってよいセブンイレブンは、かつては午前7時から午後11時まで営業していました。以前、小売店は10時頃に開店し、遅くても夕方の7~8時には閉店するのが常態でした。

 

しかし、それでは、早朝や深夜に利用したい消費者にとっては不便なのです。学校や会社に行く前に買いたい、寝る前に買っておきたいという要望に応えるため、7時から11時までオープンしますという訴求点をズバリ店名にしてしまいました。

今では24時間営業が当たり前ですから、セブンイレブンの意味を知らない人が増えているのも仕方のないことです。

 

もう一つ、事務用品の通販で急速に業績を伸ばしてきた会社としてアスクルがあります。この社名は「明日来る」という意味です。通販では注文して商品が届くのが早くても2、3日というのが常識です。

しかし、会社でそれだけかかったのでは業務が滞り、とても間に合いません。いきおい、手近な小売店に走ることになります。そこで、翌日にはお届けしますというシステムを築き、そのアピールポイントを社名にしたのです。分かりやすく、すぐ覚えてもらえるという点では共通しています。

 

短くてリズム感がある

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ネーミングは短いほどいいという法則があります。長い長い商品名は覚えづらく、現代のネット社会では検索をかけたいとき入力が面倒という点も考慮しなければなりません。

短いネーミングはリズム感も同居させやすく、それがさらに広く浸透させる効果を生みます。今はもうほとんど聞かなくなりましたが、かつてケロリンという人気頭痛薬がありました。バスクリンやポッキーは今も健在です。

 

短くてリズム感のあるネーミングの代表としてもう一つ、写ルンですという商品があります。これは次に紹介する時代背景をとらえたものでもあるのですが、従来はカメラが主でフィルムは従であったのに、写ルンですはフィルムが主でレンズは従という画期的な商品でもあったのです。つまり、フィルムなのに写るのですというコンセプトを、写ルンですというネーミングに込めているわけです。

デジカメ社会が到来し、さらに携帯電話のカメラ機能が進化してレンズ付きフィルムの需要は減少しつつありますが、ネーミングの歴史に刻み込まれる商品であったことは間違いないでしょう。

 

さて、ここまでネーミングは短いほどいいとするという前提で書き進めてきましたが、近年、その傾向に変化が見られます。

 

例えばこのような商品があります。

じっくりコトコト煮込んだスープ──15文字です。このじっくりコトコトシリーズは売れているらしく、濃厚コーンポタージュや濃厚クラムチャウダーなど10アイテム近い商品がラインアップされています。隠れ家レストランの贅沢なシチューというのもあります。

皆さんが食品スーパーに行って買物をするときのシーンを思い浮かべてください。記憶に残っている分かりやすいネーミングの商品ももちろんあります。過去に何度も買って食べているから味も保証されています。しかし、少し飽きてきた、今日はちょっと違うものを食べてみたいと思ったとき、こんな商品が陳列されていたらどうしますか? 

 

長いネーミングではあるけれども商品の特徴をしっかりと伝えています。また、短くてリズム感のある商品ばかりが並んでいると、長い言葉でしっかりと特徴を伝えてくれるネーミングは逆の意味で新鮮さを感じます。名前を覚えてくれても販売につながらないのでは意味がありません。購買行動を起こしてくれるネーミングを考えなくてはならないのです。

 

時代をとらえている

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1987年は国鉄が消滅してJRに生まれ変わった年です。JR東日本では、通常の快速よりもレベルが高い通勤快速という名の通勤電車を運行させ、サラリーマンの大きな支持を得ました。

これを一文字変えて通勤快足なるソックスを発売したのがレナウンです。当時としてはまだ珍しかった抗菌防臭機能を備えており、これもまたサラリーマンたちの人気を集めて大ヒットしたのです。

 

もっとも、この通勤快足なる商品には注目すべき一つ前の段階があります。そもそも、このソックスは1981年にすでに発売されていたのです。そのときの商品名はフレッシュライフでした。初年度こそ3億円の売上げがありましたが、その後は右肩下がりの状態が続いていました。

そこで、起死回生を図るべく新たなネーミングで再度新発売したのが通勤快足だったということです。狙いは的中し、その年の売上げは13億円、翌年には45億円という大ヒット商品となりました。

 

今でこそ、なじみのある用語の一文字だけ変えるというやり方は珍しくありませんが、当時としては目新しい手法で、多くの人の興味を引いたのが一つの理由でしょう。

また、その時代は猛暑の先駆けともいうべき頃で、電力不足から首都圏では280万世帯が停電という事態が起こっています。猛暑、満員電車、汗、靴の中の蒸れという連想から、通勤快足が絶大な支持を受けたことは想像するに難くありません。

 

もう一つ、忘れてはならない時代背景があります。1987年には朝シャンという新語が流行語大賞を受賞したのです。朝シャン自体は女子高生に限定される習慣ですが、国民全体が健康・清潔志向に向かい始めていた時代といってもいいでしょう。ちなみに、O157が広い規模で発生して清潔志向に拍車がかかるのはこの9年後の1996年のことです。

親近感がある

誰もが短くてリズム感があり、インパクトのあるネーミングを目指してきた結果、我が国にはカタカナ商品があふれることになりました。先に紹介したじっくりコトコトはまだまだ少数派です。しかし、ここに来て、方針の変更がさまざまな分野で見られるようになりました。なっちゃん、DAKARA、渋谷ヒカリエといった和語によるネーミングがヒットしているのです。

確かに、カタカナ語はシャープでお洒落でリズム感に満ちています。しかし、親近感となると今一つというところです。というわけで、より親近感の増す和語による商品が台頭してきています。その代表として、ここではお〜いお茶を取り上げてみましょう。

 

伊藤園が缶入りの緑茶を発売したのは1985年でした。それまで、緑茶は無料のサービス品というイメージが定着しており、有料のお茶が売れるとは誰も思っていませんでした。飲料メーカーとしての伊藤園は明らかに後発で、その賭けに乗ったのですが、結果は大失敗。まったく売れませんでした。

ただし、そのときの商品名は缶煎茶。しばらくして伊藤園に、煎茶はなんと読むのかという質問が入り、慌てて大学生を中心としたアンケートを実施しています。質問の内容は、日本茶をなんと呼ぶかというものです。そのときの結果は、1位が緑茶、2位は日本茶、3位グリーンティー、煎茶は4位だったといいます。

 

そこで、テレビCMの中で「お〜いお茶」と呼びかけるシーンがあったことから、それを商品名にしたところ売上げが6倍に伸びたそうです。缶煎茶に比べると非常に親近感が湧くし、インパクトもあります。通勤快足と同じくネーミングの変更が効果を表した例ですが、もう一つ改名が功を奏した商品を紹介しましょう。それが缶コーヒーのBOSSです。

この商品の前身はWESTという名前で1987年から1992年にかけて販売されています。しかし、話題になることはなく、新たな缶コーヒー戦略を展開するうえでもう一度アンケートを取ると、缶コーヒーのユーザーは年配の男性が多く、それも大量に飲むパターンが多いという結果が導き出されました。そこで、働く男が相棒として一度は呼ばれてみたいというBOSSに決まったのです。このヒット商品は15年以上ものロングセラーとなっています。WESTに比べると親近感が湧くし、存在感もはるかに圧倒しています。

信頼感がある

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ある種の商品の場合、信頼感が持てるネーミングの方が購買行動につながりやすいという傾向があります。一つの例が薬品です。商品価値が分かりやすい例として薬を取り上げましたが、それらは新しい商品のケースで、効能や使い方を分かりやすいネーミングで伝えるというコンセプトによるものでした。

信頼感が持てるというのは薬の性質をズバリ表している場合です。◯◯胃腸薬、◯○感冒薬というのがそれで、このタイプのネーミングは理性で判断することが多い男性に効果を発揮するといわれています。太田胃散、救心などはいい例でしょう。

 

面白いことに、信頼感を持ちやすいネーミングは漢字と密接な関係があるようです。カタカナの商品が氾濫している中で和語のネーミングが増えつつあると前述しましたが、漢字によるネーミングも増えてきています。先に紹介した通勤快足もそうですが、麒麟淡麗、少し前では霧ヶ峰、愛妻号というのもありました。

漢字は信頼感を与えやすいのと同時に、一文字だけでイメージを伝えるという特徴があります。カタカナは表音文字で、それ自体はなにも伝えません。しかし、漢字は表意文字ですから、暖、爽、清、麗といった一文字だけでイメージが十分伝わるのです。

 

また、専門家・専門店という文字も信頼感を植え付けます。商品名は短い方がいいという法則によって、これまで専門家・専門店はキャッチコピー的な使われ方をするケースが多かったのですが、これからは堂々と商品名に用いられる場合も増えてくるのではないでしょうか。

 

ダメな商品ネーミングとはどんなものか

ここまではヒットした商品を紹介することで、そのネーミングにはどのような特徴があったかを見てきました。次に、その逆のケースを考えてみましょう。通勤快足やお〜いお茶、BOSSの前身がその例といえなくもないのですが、もっとひどいケースもまた氾濫しているのです。

よく見られるのが、命名者のこだわりが込められたケースです。女性向きのファッションを扱った小売店で、どう読めばいいか分からないアルファベットのお店があります。さらには、一文字だけ裏返しにしたり上下逆さまにしたり、上に・(点)を付けたりしたものもあります。

 

店内に入ればどんな商品があるかは分かりますが、店名を読めない・覚えられないというのでは致命的です。ほかの人に説明できないから口コミが伝わらないし、ネット検索もかけられない。当人はこだわってこだわって命名したのでしょうが、一人よがりといわれてもしょうがありません。

 

次は、シンプルにしたあまりどんなものか分からなくなったケースです。宅急便はシンプルですが、内容をしっかり伝えています。しかし、ラー油は一般名詞ですから具体的な商品とは結びつきません。食べるラー油にすれば商品名になります。同様に、お茶漬けだけでは分かりません。お茶漬けの素としなければならないのです。

 

もう一つ、例を挙げてみましょう。長い間和食の世界で生きてきて道を極めた人が中華料理に目覚め、和風中華というお店を開店した、あるいはレトルト食品を開発・販売したとしましょう。この外食店、レトルト食品はヒットするでしょうか? 

よほど美味しくてグルメ番組で盛んに紹介されるか、または巨大資本を投下して宣伝活動をするかしない限り、難しいのはいうまでもありません。

 

大企業と中小企業の戦略

たった今、巨大資本を投下して宣伝活動をしない限りと書きました。そこにもまた、ヒット商品を生み出す原動力が潜んでいます。

商品価値が分かりやすい、親近感を抱きやすい、時代に則している、信頼感があるといったネーミングの基本を紹介してきました。では、現在売れているすべての商品はそのいずれかに当てはまっているでしょうか?

 

なじみ深い風邪薬を見てみましょう。ルル、ベンザ、コンタック、パブロン……短くてリズム感があるのは認めましょう。しかし、分かりやすい、時代、信頼感とは無縁のネーミングです。ここに大企業の戦略があります。時間をかけて商品をじっくり浸透させ、テレビCMで広く宣伝活動できるだけの資本力があります。Vロート目薬などまさにその典型です。スポットCMを打つのではなく、長い間テレビ番組の提供を続けて親近感を持たせ、安心感・信頼感を植え付けたのです。

しかし、中小企業が同じ戦略でヒットさせるのは無理があります。それほど経費をかけるわけにはいきませんし、短時間で結果を出すように求められているのが現状です。そのためには、一度聞いただけで覚え、商品価値が分かり、なおかつ親しみを持てるネーミングを目指さないといけないわけです。

 

文章を単語にして、さらにアイコンを設定する

最後に、ネーミングのプロセスを紹介しておきましょう。アイデアを生む方法はそれこそ無数にありますから、専門の文献を調べてみるといいでしょう。

最初に決めておかなければならないものがあります。ビジョンやコンセプトです。具体的な消費者をモデルとして抽出し、男女、年齢、生活様式、家族構成、学歴とできるだけ細かく設定しておきます。そして、そのモデルにどんなイメージを訴えたいかを文章や単語にしてできるだけたくさん挙げてみます。

一つの単語が出るとそれに連想されて次々に出てくるはずです。100や200ではダメです。300から500は出してみて、もうこれ以上は絶対に出ないという状態まで追い込みます。

 

そこまでいったら、次は削っていきます。切り捨てるのは惜しいと思う案はすべて残しておきます。それを何度も繰り返していると、いくつかの傾向に分かれてきます。その時点で、ではどの傾向に絞るのかを決めると一挙に数は少なくなるでしょう。

その後はさらに絞り込むのもいいし、ある段階で第三者の意見を聞くのも一つの方法です。最終段階でまったく新しいネーミングが採用されるケースもままあります。ただ、これもまたそれまでのプロセスを経過した結果なのだといっていいでしょう。

 

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