From:松本泰二
我々はなぜ協力し合う相手を作るのか、つまりはなぜチームを作り、チームで仕事やそれに付随するプロジェクトに対して取り組むのか。今回のお話では、そういった問題解決のためのチームを作っていく意味合いと理想のチームとはどんなものなのか。そしてチームを作って仕事をしていく上で時に欠かせない「採用・育成・メンテナンス」についてお話ししたいと思います。
では、まずは仕事をする上での「チーム」の意味合いについてお話ししていきましょう。
起業をする上での「チーム」の意味合いについて
チーム作りについてお話ししていく前にお伝えしておきたいのは、決して起業は必ずしもチームで行う必要はないということです。現代はネットも発展していますから、事業の種類によっては1人で事業を立ち上げて、1人で運営していくことだって可能です。ですから、1人で会社経営を行うことを否定するわけではありません。
しかし、その中でも何故チームでの事業運営をあなたにお勧めするのかといえば、自分の強みを生かすこと、そして人との関係性の構築をきっちりとしていくことができる面は会社経営において非常に重要であるからです。ですから、今後一人で事業を進めていきたいと思っている方も、是非チームでの事業運営について少し考えてみて下さい。
さて、仕事やプロェジェクトを進めていく上でチームを作る意味とは何なのかというと会社として継続的に成功していくためには、総合力が必要であるというところなのです。総合力を培い、それを会社に生かしていくためにはチーム作りが欠かせません。一人で総合力を養うということは簡単なことではありません。
前回の記事で経営者の特徴や、自分自身のことをタイプ分けしていったと思いますが、その中でもお話したように経営というのは会社全体の能力を向上させていくことが重要であるので、商品開発・営業活動・経営管理の3つが全てバランスよく回る必要があります。
しかし、経営者のタイプ分けでも述べたように人間は全てが完璧であることは滅多にありません。これを読んでいるあなたも、自分のタイプを前回しっかりと把握していかれたと思います。その中で、「自分は全てが得意だ!」と思われた方はほぼいないと思います。
つまりは、自分自身の特徴に偏りがあるのにもかかわらずそこで会社全体の総合力を上げようとするのはほぼ不可能で、更にそれをするだけの余計な労力が必要になってしまうのです。
苦手なことも頑張ればなんとか人並みにはできる、というのはよくあることです。しかし、得意なことは案外頑張らなくても人並み以上に出来てしまうものです。ですから、苦手な部分をどんなに頑張っても、それを得意な人がそこに現れてしまえばその部分では競り負けてしまう。
経営とは残酷なもので、苦手なことを頑張った努力が必ずしも報われるわけではありません。だからこそ、その分野に秀でた人を集めてチームを作っていくことが大事なのです。それぞれ、個々が持ち合わせている違い、得意な部分の違いを組み合わせ、つなぎ合わせていくことで最も良いものを作っていこうということなのです。では、
チーム作りのゴールは一体どこなのでしょう。
それは理想のチームを作ることにあると思います。理想のチームとはどういうものかというと、私は「自立型チーム」がそれにあたると思っています。「自立型チーム」とは、その仕事を進めていくメンバーの個々人がそれぞれに自ら仕事の進行について考え、どうすべきかを判断し、それに対して積極的に行動し、そして自分に課されたものに関して結果を確実に出していくというチームです。
これがいわゆる理想のチームであり、自立型を呼べるチームの姿であると思っています。
当然、簡単ではありません。
しかし、こういったチームを目指して起業のチーム作りというものを進めていって頂きたいのです。かつては「社長の命令には絶対服従」というような会社も多かったです。しかし、今はもうそんな時代ではありません。むしろそんな風にしていれば経営が成り立たない、会社として存続していけないのです。ですから、「自立型チーム」は現代社会に沿った理想のチームなのです。
こういった「自立型のチーム」を目指していく際に必ず出てくる問題が「主体性と依存性」の問題です。理想の、完成された自立型のチームは必ず主体的であり依存的であるという特徴があります。これは一見すると矛盾している話かと思われるかもしれません。
しかし、この矛盾しているようそが自立型チームでは絶対的に両立されているのです。
例を挙げましょう。
オーケストラを想像してみて下さい。一流のオーケストラになればなる程に、個々のプレイヤーの演奏技術は卓越し、自立しています。自分のパートを確実に、絶対的な能力を持ってこなします。しかし、彼等はどんなに自立した存在であっても、オーケストラのハーモニーの一員であり続けます。
一曲を演奏する上で全員が無くてはならない、その曲を最後まで演奏しきるには他のプレイヤーに依存せざるを得ないのです。こういったところからも分かるように、より良いチームになればなる程に「主体と依存」の問題は必ず存在します。そう考えると、我々の「チーム作り」の意味がだんだんと分かってきます。
我々経営者は、当然有能な人材と仕事をしたいと望むものです。あまり仕事ができない、能力が無い人たちよりは優秀かつ自立型の人たちと仕事がしたいと望むのは当然のことです。しかし、そういった高い能力を持った人たちと仕事がしたいと望むのであれば我々経営者はきちんと理解しておかねばならないことがあります。
それは、そういった高い能力を持った人たちは職位では動かないということです。職位ではなく、役割によって動いているのです。
それを理解していないと、能力のある人であればある程一緒に仕事をすることが出来なくなります。能力のある人を、職位で動かそう…例えば、「私は経営者なのだから私の言うことは絶対だ」というような態度でそういった人たちに接していたなら、能力のある人であればある程いつでも会社を去っていけるのです。そうして、能力のある人たちとは仕事をすることができなくなっていくのです。
それではどうするのかといえば、自分は経営者であるために商法の上では上、と呼ばれる立場にはあっても、彼等に対して「常に共に仕事をこなしてくれている大事な仲間、パートナーである」という考えていることがとても重要です。そういった心持ちは、能力の高い人であればあるほど大事です。
当然、まだ成長段階で今は決して能力が高いとは言えない人だけれども今後芽がある、というような人に対しては我々は目をかけ、導いてあげるという気持ちが大切であったりします。
しかし、そうではなくて既に高い能力を持ち合わせている人、そういったパートナーに関してはパートナーシップであったり、自分は経営者という「役割」をしているにすぎないのである、という考えを明らかにしておく方が良いということです。当然、「経営者」というのも会社における役割の1つです。我々はそういった役割を請け負っている立場である、ということです。
これは先程のオーケストラの例でいえば我々は「指揮者」の立場であるのです。傍から見ていれば、指揮者は絶対権力者であるように思われがちです。
しかし、指揮者もオーケストラの中の1つの無くてはならないパートであり、オーケストラを構成する1つの役割に過ぎません。それもそのはずです、指揮者は演奏者がいなければ、曲を作り上げることも音楽を奏でることもできないのですから。それと全く同じことを、経営者である我々も考えなければなりません。
経営における「右腕、左腕」と呼ばれるような人がいるか
ではそのように考えていった際に、みなさんの会社には屋台骨と言われるような、もっと簡単に言ってしまえばあなたの経営における「右腕、左腕」と呼ばれるような人がいるかどうか、ということなのです。
多くの経営者の方の悩みとしてそういった経営の「右腕、左腕」と呼ばれるような人たちがいないということがあります。ですから、起業する際にあなたに考えてほしいこととして、こういった「右腕・左腕」という存在を最初から作っておくということです。
当然、最初は居なくても構いません。しかし、自分が苦手としている点を得意としている人はいないかどうか、自分と一緒にそれをやってくれる人がいないかどうかを考えることはとても重要なことです。
苦手な点を一生懸命やるよりは、それを得意な人に任せた方が絶対にうまくいくのです。ですから、チームの組み合わせを考えるときであっても自分が苦手な点を得意な人がカバーし、その人が苦手としている点を自分の得意分野でカバーできるような構成にするのです。
チーム構成の時についうっかりミスをしてしまうことがあります。
それによってその先にもとても影響するミスなのですが、それはどんなものかといえばある人と他の人を組み合わせをする際に同じような人を選んでしまう、ということなのです。この人とは気が合う、であったり、考え方が一緒である、であったり、そのような感覚を持ってパートナーを選んでしまう人は案外多いものです。
しかし、よく考えれば、そういった人たちを自分のパートナーや仲間に選んでしまうと、仲は良くなりますし楽であることは正しいのですが、会社にとって最も必要とされる総合力はつきません。
分かりやすい例を挙げるならば、サッカーの例でしょう。
自分がフォワードであるのに、仲間としてフォワードをさらに連れてきているようなものなのです。どんなに自分がフォワードとして点を取っても、ディフェンスがいなければ敵に点を取られることは防げません。自分がフォワードなら、チームのためにはディフェンスを連れてこなければならないのです。
勿論、自分がディフェンスなら連れてこなければならないのはフォワードです。つまりは、「右腕・左腕」と呼ばれるような人、つまり一番近くで自分を支えてくれるような人に求める資質は自分と同質であることではなくて逆に自分と異質であるということなのです。
自分と違う性質を持った人を探すのです。そして、違うと言ってもただ違うのではなく自分の苦手としている点をカバーしてくれるという相補完的な関係性を持てるような違いを持った人を探して下さい。
経営は自分と異質な性質を持ったパートナーと行っていく方が本当にうまくいくと私は思っています。当然異質ですから、時に対立するリスクも当然ありますがそれを差し引いても自分と異質であるパートナーを持つメリットはとても大きいのです。
是非、自分と異質な人を探してください。自分にとってそういった人はどういう性質を持った人なのか。自分の近く、自分の周り、今までに出会ったことのある人の中にそういった人はいないのか。ぼんやりとしたイメージがつきにくければ、実名で構いません。
むしろ実名でイメージした方がよりリアリティを持つと思います。もしかしたら本当にその人にお願いすることになるかもしれません。そして、お願いしてみたら案外その人も乗り気になってくれるかもしれません。
是非、自分が相手として求める要素を、自分にはどういった人が必要なのかを、実際に実名を出しながら考えてみて下さい。
ヒントとして、より良い組み合わせについて少しお話ししましょう。
前回もお伝えしたのですが、経営で大事な3つ「開発・営業・管理」。つまり、開発を得意とする人なら営業を得意とする人と組むのが良いですし、営業を得意とする人なら開発を得意とする人と組むのが良いでしょう。
起業時は管理型はまだ必要性が高くはないので後回しでも構いません。まずはこの二つです。
また、もう一点ですが立ち上げるのが得意な人はそれを伸ばしていくのが得意な人と組むということです。全く何もないところから新しいものを作り上げる人と、それを大きく広げていく人もまた、別の能力ですし両方が得意な人はなかなかいません。
ですから、自分がどちらなのかを見極め、そうでない方の性質を持った人をパートナーにするということなのです。ちなみに、現存する日本の会社で言えばホンダやソニーはそういった組み合わせで経営を今まで行ってきています。大企業こそ、そういった基本を忠実に行い発展しているのです。
是非ともこういったチーム構成を考えて経営をしていただきたいなと思います。