成長曲線と感謝力

現在のような情勢の中で起業した経営者は非常に厳しい立場に立たされています。高齢化によって成年の人口比率はますます減少し、実質所得はマイナス成長を続けています。まだまだ出口は見えません。その中で生き延びるためマインドとして大切なのは、とにかく3年間頑張ることです。世の中で通用するには3年分の蓄積が必要です。どんなに苦しくても3年我慢すると急速に業績は伸びてくるものです。

同時に、周囲の人たちに対する感謝の心を忘れないようにしましょう。自分一人だけで仕事をしているわけではありません。周囲の人の協力があってこそ自分があり、自分の会社があるのです。感謝する人の周りに人が集まるという事実もあります。人は力なり……なのです。

 

五輪書が伝えるもの

日本人なら誰でも知っている剣豪の一人に宮本武蔵がいます。その宮本武蔵が著した兵法書が「五輪書」ですが、その中に「千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を錬とす」という言葉があります。「鍛」には千日が必要で、「錬」は万日を要すという意味でしょう。

本来、鍛錬とは金属を打って鍛えることですが、それから転じて厳しい修行を積んで心身を磨くことにも使われるようになりました。宮本武蔵はそれを1000日も10000日も続けることで強くなれるといいたかったのでしょう。

 

ここで目を留めて欲しいのは1000日と10000日です。1000日とは33か月と10日、つまり2年9か月と10日です。10000日は27年9か月と10日になります。

一方、マルコム・グラドウェルというノンフィクションライターは、その著書の中で「10000時間練習すればどんなアスリートも一流になれる」と書きました。1日に8時間練習したとすれば10000時間は3年5か月と20日になります。オリンピックで金メダルが取れるものならそれだけの努力を払うだけの価値はあるでしょう。しかし、それだけの期間、鍛錬を続けるのは凡人にはとても無理なのです。だからこそ、金メダルは価値があるわけです。

 

多少の誤差はありますが、3年という一つの基準が出てきたことに気づいたでしょうか。「石の上にも3年」という諺があります。達磨大師がそのだけの期間石の上に坐り続けたそうですが、この3年という数字がどこから生まれたのかは不明です。しかし、先人はなにかを成し遂げるにはこれだけの月日が必要だということを知っていたのでしょう。

 

成功曲線は右肩上がりの直線ではない

武道やスポーツに限らず、結果を出したくてなんらかの努力や鍛錬を続けたとき、その成長の度合いはほとんどの場合、右肩上がりの直線ではありません。多くの人が勘違いしているのですが、最初はなかなかその成果が見えません。本当に上達しているのかと心配になってきますが、ある日を境にして急激に伸びます。それまでは3〜5度の緩い傾斜だったのが、30〜60と急角度で伸びていきます。

 

これを成功曲線(努力曲線、学習曲線とも)と呼びます。楽器、ダイエットの効果も同様ですし、もちろん新しく会社を興した場合も同じです。創業時はまずより多くの人に認知してもらわなければなりませんし、生産や流通、アフターフォローの面などでさまざまなつまずきがあるでしょう。ある程度の予測はしていても、実際に始めてみたら想定外のトラブルが発生するのは当然です。

 

それらを一つずつクリアしながら地道な努力を続けなければなりません。最初に目標とする期間が3年です。それだけ継続させれば、本人は気づかなくともそれなりの実績を積んできていますから力はついているものなのです。1日に8時間以上働けばその期間は短くなるでしょう。結果を出すためには時間と量が必要なのです。

 

継続は力なり

会社を経営するのは終わりのない挑戦です。個人経営ならば好きなときに解散するのは可能です。しかし、従業員がいて取引先があるとなると自分だけの問題では済まなくなります。その人たちのことを大事に思うのなら半永久的に会社を存続させないといけないし、それが経営者としての務めです。そのことは重々知っているのでしょうが、創業から3年以内に消えてしまった会社が無数にあります。

自分の思い通りにいかないとさまざまな迷いが生じます。本当にこれでいいのか、このやり方で間違ってないのとかと疑心暗鬼に捕らわれます。その中でもとにかく3年を目標に頑張れば、その後は急速に伸びるというパターンがよくあります。皆さんは経験があると思いますが、前年同時期の数字は非常に参考になります。

 

それと比較して今年はどうだから、その先の予測が立てやすいのです。創業1年目は目安となる数字がまったくありません。迷いが生じるのはこれも理由の一つでしょう。ですが、2年目となると1年分ですがデータはあります。3年目は2年分のデータがあります。指標としてはかなり信頼がおけるようになっていることでしょう。

 

ちょっと考えてみてください。既存の会社は30年、50年、中には100年以上も継続しているところもあるのです。そういうライバルと戦わないといけないのですから、1年や2年で戦線を離脱するという考え方そのものが甘いと思ってください。

 

感謝というスピリットを見直す

ビジネスとは生き残りを賭けた戦い──そう考えるビジネスマンは少なくないでしょう。経営者にしても同様です。特に、起業したばかりの厳しい状況に身を置いている彼らはライバルとの厳しい戦いに勝ちを収め、生き残らなければならないのですから、ぎりぎりの状態で毎日を送っているといってもいいでしょう。

 

そういう彼らに「感謝力」を磨きなさいなどと言うと、フンと鼻で笑われるかもしれません。そういう悠長なことに気をかけているヒマはないというのが本音かもしれません。ですが、そこでちょっとだけ立ち止まり、周囲に目をやってほしいのです。あなたは一人だけで生きているのですか? 一人だけで会社を運営しているのですか? もしかすると、本当に一人で会社を立ち上げた人がいるかもしれません。

しかし、顧客や取引先、協力会社まで含めると、あなたは決して一人で戦っているわけではないことに気づくのではないでしょうか。そして、彼らとともに前へ進んで行こうとしたとき、この感謝というスピリットが大きな役割を果たします。

 

社内外での感謝力の効果

あなたは自分の会社で働いている従業員に感謝していますか? 満足に仕事もできないのに権利だけは主張しやがってとか、給与を払ってるんだから仕事をするのは当然などと思ってはいないでしょうね。

 

感謝とは必要なものだからお客さんや取引先に感謝しなさいと指導しても従業員は感謝しません。上辺の感謝では相手の心には届かないでしょう。では、心に届く感謝をしてくれるようにするにはどうすればいいでしょう? それは、心のこもった感謝をあなたが従業員に対してすればいいのです。ウチで働いてくれてありがとう。毎日毎日出勤してくれてありがとう。それを毎日繰り返します。

 

そう言われた方はどう思うでしょう? 素直な心を持っていれば、経営者からそう言われた従業員はその気持ちに応えたいと思います。それが活力につながります。店員に心から感謝されるとお客は信頼するようになります。それがファン化につながります。

一方、社外ではどのような効果があるでしょう。例えば、取引先に対して心に届く感謝をしていればやはりここでも信頼が生まれます。この人ならなにを任せても安心できる、どんな人に紹介しても心配は要らないと思えば次々と取引先を紹介してくれるようになります。このようにして人脈はどんどん広がります。感謝しない人は人脈が広がりません。人も集まらないのです。