From:松本泰二
商品を作る際には、顧客の「ニーズとウォンツ」、この両面を同時に満たせることが必要です。経済学者コトラーによると、ニーズとは「人間の生活上必要な、ある状況が不足している状態」を指し、ウォンツとはその「ニーズを満たす、特定のものが欲しいという具体的な欲望」と定義されています。
言い換えると、「ニーズ」は抽象的な欲求や、生理的な欲求を指し、一方「ウォンツ」はその欲求を満たす具体的な手段として、顧客から選ばれる特定のモノを指すと言って良いでしょう 。実際のところ、ある商品が「機能的に」顧客のニーズを満たせるからと言って、必ずしもその商品が顧客に選ばれ必要とされる「ウォンツ商品」となるわけではありません。
ニーズを満たしただけでは選ばれない
例えば、家電製品なども機能的なニーズを満たしただけでは選ばれるとは限りません。顧客が心の中に抱くより深い欲求、例えば自宅にマッチする高いデザイン性などの、より深い条件を満たせた時、それはウォンツ商品となります。例えば同じ家具でも、スーパーの家具売り場で買うものと専門店で買うものとでは求められるものが違ってきます。
緊急に必要だったり、資金が限られている場合をのぞき、最近はスーパーの家具売り場で家具を買う人はあまりいません。
例えば、イケアは家具としての本来の機能に加えて、デザイナーの作品を扱うことによって、デザイン性や面白いとか可愛いと感じる商品を提供しています。値段も手頃ですが、スーパーの家具売り場で売られている商品よりも、顧客の「ウォンツ」の部分を満たしているために、より多くの人に選ばれる可能性が高くなります。
さらに高級な家具になると、購入する人は限定されるかもしれませんが、欲しいと思う人は高いお金を払ってでも、求めるデザイン性を備えたものを購入するでしょう。
ウォンツ商品
このように、機能的なニーズを満たした上で、より深い欲求を満足させることができるなら、それはウォンツ商品となります。
市場がすでに飽和状態になっている場合、顧客の支持を得るためには、顧客の機能面のニーズだけではなく、より深い欲求であるウォンツを満たせる部分を見せることが必要条件となってきます。
お土産などはウォンツ商品の典型です。お土産は機能的には、ただのお菓子やキーホルダーだったりするかもしれません。顧客はお菓子やキーホルダーが欲しくてお土産を買うのではありません。実際に顧客が欲しているのは、観光地に行ったことの記念となったり、お土産話の種になるといったもっと深い欲求を満たしてくれる何かです。
そこで、観光地のロゴが入っていたり、その土地の名産が使われていることで、お土産は顧客のウォンツ商品となっています。顧客のどんな深い欲求を満たせるだろうか?と考えることで、よりヒットするウォンツ商品を生み出せるでしょう。
商品設計を考える上で考える事
商品設計を考える上でさらに役立つのは、人間の行動は2つのうちのどちらかを動機とするもの、つまり「痛みを避けるか、快楽を得るか」のどちらかのためのものに分けられるということです。
人の「痛み」の部分をより多く見つけ出し、それを解消したり、緩和したりする方法がないかと考えるなら、自然と人の行動する流れに沿ったサービスを提供でき、より多くの人に受け入れられることになります。
人の痛みの部分を探すためには、出来る限り数をあげて、すべてをリストアップしていくという方法が効果的です。リストアップする数は多ければ多いほど良く、50~100個はあげられる方が良いでしょう。
この痛みのリストアップをするとき、ターゲットとなる人物像を明確にするとリストアップがしやすくなります。ターゲットのような立場の人なら、どんな痛みや悩みを抱えるだろうか?と具体的な状況をたくさん上げて、色々な角度から痛みや悩みをリストアップして行きましょう。
ターゲットが明確だと、その分具体的にリストアップしていくことが容易になります。
例えば、あなたの設定したターゲットは生活のどんな部分で痛みを抱えているでしょうか?お金の部分ではどんな痛みを抱えているでしょうか?健康の分野ではどんな痛みを抱える可能性があるでしょうか?感情的に抱えている痛みがあるでしょうか?家族はどうでしょうか?ターゲットの家族はどんな痛みを抱えているでしょうか?
ターゲットが明確に決まっていない場合には、人が普遍的に持つ、どんな痛みや悩みがあるだろう?と考えましょう。
悩みや痛みのリストアップが出来たら、このリストにある問題の解決法を、ターゲットに提供するのがあなたの使命です。商品の設計ということで、まずはお客様の深いニーズを満たせるウォンツ商品という視点から、新しい商品のアイデアを考えるということを考えました。
次に、良いアイデアが生まれたら、その後の商品の発展に関して考えていきましょう。商品は発展していくと、その分野の中で、いくつかの方向へ変化していきます。その方向は大体決まっています。
シンプル化、スピード化
まず第一に、商品はますますシンプル化、スピード化していくということです。ある製品やサービスが、顧客の基本的・機能的なニーズを満たせると、次に顧客が商品に求めるのは、「より手間や時間を省くことが出来ないか」という点です。
例えば、外食産業では、よりスピーディに、より手軽に食事をすることが出来ないかという発展をして、ファストフード産業が発展してきました。通販サービスでは、アマゾンの即日サービスや楽天のあす楽サービスなどが、スピード化への発展を遂げてきました。
より深い満足
商品が発展していく第二の方向として、顧客のより深い満足を求めるという発展の方向があります。
例えば、コンビニのセブン・イレブンのセブンプレミアムなどの商品がこれにあてはまるかもしれません。コンビニに求める、スピードや手軽さといった要素にプラスして、より高い満足を得られるという方向へ発展した例だと思います。
細分化
第三の発展の方向として、顧客のニーズに合わせて細分化していくというものがあります。コンビニで考えてみると、同じような商品でも、ターゲットとなる層に合わせて多様な種類の商品が備えられています。
例えば、カロリーメイトのような手軽に栄養補給できるような商品もあれば、空腹感を和らげることに特化したダイエット向けの商品、さらに美容に関心がある女性をターゲットとした、ビタミンや栄養素のバランスをとることのできる栄養補助食品など、多様な商品がそろえられています。顧客は自分の必要に応じて、特化した商品を選ぶことができます。
カスタマイズ
ノートパソコンでも個人の必要に特化していくという傾向が見られます。例えば、自分の好きな機能を自由に選んでカスタマイズできる製品が多く市場に出ています。自分に不必要な機能は省いて、必要なものを選び取ると言う方向性です。
こうした点を考えて自社の製品は、この四つの方向性に発展するとしたら、どのような物になっていくだろうか?そして出来るだけ四つどちらの方向へも発展することを求められないだろうか?と考えることが出来れば、顧客のニーズをより深く満たせる商品へと発展させていくことが出来ます。
先ほど顧客の深いニーズを掘り起こすために、人の二つの行動の基本的な動機となるもの、つまり「痛みを避け、快楽を求める」ということについて触れましたが、実際に顧客が製品を求める時、この二つの自然の欲求に売ってかけることが出来ます。
そうすると、そのままでは見向きもしてもらえないアイデアや商品を、顧客の興味を引き付けるものとすることが出来ます。
顧客の反応として3つの大前提
まず、顧客になにかを売ろうとしてアプローチするとき、顧客の反応として3つの点を大前提として考えなければならないと言います。
それは顧客は
1 読まない(聞かない)
2 信じない
3 行動しない
ということです。
そこで人間の自然な行動に沿ったアプローチはなんだろうか?自然に読みたい、確かめたいと思わせるのはどんなものだろうか?と考えることです。
そうすると先ほどの、人の行動は「痛みを避けること」と「快楽を求めること」に分けられるという事実に沿って発展させていくことが効果的だと分かります。人のこの二つの根本的な欲求に訴えかけるアプローチをするなら、自然にそちらに注意が引き付けられるということになります。
例えば、朝郵便受けを開けると色々なチラシが入っていますね。どのチラシを手に取って内容を見てみようと思うか、それとも内容を一切確かめずにゴミ箱に捨てるかは、その人のこの二つの根本的な欲求に訴えているかどうかで変わってくると言えます。どんなものがこの欲求に訴えるかは個人個人によって違います。
例えば、ある若い男性は欲しいと思っていたスポーツ車の写真に目を引かれるかもしれません。休日にその車に乗って、釣りやドライブに出かけたり、仲間とキャンプに出掛けることを考えます。この広告は男性の「快楽を求める」欲求に訴えかけるものだったと言えます。
またある女性が、「より美しく、若さを保つ」という言葉に引き寄せられるかもしれません。美しさを保つことで、自らの喜びや、家族や友人に褒められるという「快楽を求める」こと、あるいは自分が悩んでいる部分を解決してくれることをそのサービスに見出せるからです。
独り暮らしの社会人であれば、忙しくて自炊している暇はないけれど、健康には気を使いたいという「痛み」を避けるために、すでに半調理済みの食材を届けてくれるというサービスに目が向けられるかもしれません。
高齢の親の安否を気遣う年代の方には、「 届ける時に同時に安否の確認も致します」というお弁当の宅配のチラシを詳しく読んでみよう、問い合わせてみようかと思うかもしれません。これも親に万一のことがあるという「痛み」となる事態を避けたいという強い欲求に動かされたのです。
わたしたち、売る側の要求、視点から見るだけでは、先ほどの顧客の「聞かない・信じない・行動しない」の壁を破ることはできません。
この顧客側の視点に立って物事を見てみるというのは、とても効果的です。
例えばビジネス街でのランチの提供の仕方を考えるにしても、売り手側から考えたサービスの方針「美味しいものをスピードをもって提供する」では、限られたアイデアしか出てきませんし、それではどのお店もやっていることなので差別化はできません。この時お客の目線になりきって、顧客の本当のニーズはどこにあるだろう?と考えてみることです。
顧客になりきって色々気になる点を挙げてみます。
例えば、こう考えてみます。「この牛丼屋、ランチに良く来るけど、ほんとはこの漬物が美味しくて着てしまうんだよなぁ」とか、「お昼休みの時間が短いのに、わざわざ外に出ていって食べてたら時間がなくなっちゃうよ。でもどっかに注文して配達が遅かったら、お昼ご飯までくいっぱぐれちゃうよ」とか、「みんなでランチに行きたいけど、行ってみて混んでたら、また別のお店を探さないといけないよね。
込み具合とかメールで知らせてくれたら助かるんだけど・・・」とか感じている不満や心配事がいろいろ思いつくのではないでしょうか。
そうすると、「ランチに来られるお客様は、短い時間の間に食事を済ませなくてはいけないから、注文が決まるまでに口に出来る軽い物をテーブルに最初に出すようにしてみようか?」とか、「込み具合をリアルタイムでお知らせできるようにしてみようか?」とか、顧客を本当に喜ばせることのできるサービスが提供できないか考えることが出来ます。
ここに上げたようなことは、表面的なことばかりで、みなさんはもっと創造的な、深いところを探り当てることがどんどん出来るでしょう。
まとめてみると、
ここまでの事をまとめてみると、まず顧客に必要とされる商品やサービスというのは、顧客の機能的なニーズを満たしているだけではだめだという点です。
顧客に本当に喜ばれる「ウォンツ商品」になろうとすれば、顧客のもっと深い欲求や必要を満たせなければなりません。表面に上がってくるのが、機能的なニーズだとすると、もっと掘り進めるとより深い満足を求める部分を掘り起こすことが出来ます。
それは、例えばデザイン性だったり、安心感を与えてくれる保証がしっかりしていることだったりするかもしれません。あるいは、その製品を買う事によって、さらに突っ込んだサービスを受けることが出来たりするでしょうか?顧客にほっとする時間を与えたり、高級感を味わいたいという気持ちを満たすもことは出来ないでしょうか?
まずは顧客の表面的なニーズを満たし、そのうえで、それに付け加えて、別の価値観を付け加えることが出来れば、より深い満足をお客様に与えることが出来るのではないでしょうか。
さらに、顧客に必要とされるものを提供するためには、顧客の「痛みや悩み」を取り去ることのできるものを提供すると効果的であることにも注目しました。
そのためには、ターゲットの「痛みや悩み」をリストアップしていく方法が効果的でしたね。ターゲットの視線にたって、様々な切り口から問題点を探っていくと、色々な痛みや悩みが見えてくると思います。顧客にサービスを提供する側からすると、こうしたアプローチの仕方はとても重要だと言えます。
さらに、顧客の心をとらえるアプローチの仕方として、人間の行動の動機となる、根本的な二つの欲求、「痛みを避け」、「快楽を求める」という視点から入るということもありました。
この二つの欲求を動機として、私たちはあらゆる行動をとります。
これは私たちの思考の自然な流れにそったアプローチの仕方ですので、顧客の視線を引き付けるのに大変効果的です。このうち特に「痛みを取り去る」ことへのアプローチは、顧客の反応も素早く、少しくらいお金がかかっても、経験している痛みと比べれば何のことはないと顧客に思わせることが出来ます。
例えば心の痛みがあるとき、多くの人は効果的だと分かれば、少しくらい高いお金を払っても良いカウンセラーのもとへ行こうとします。それは抱えている痛みが解消することと比べれば、少しくらいのお金は惜しく感じないからです。
この痛みを取り除く方向からのアプローチは、本当にたくさんあり、大変効果的です。
人の痛みに付け入ってお金を稼ぐのは、卑怯なように感じるかもしれませんが、自分がお客であったらと考えてみてください。心の痛みはもちろんですが、お腹をもっと引き締めて、何の気兼ねもなく上着を脱いで、ワイシャツの下の引き締まったお腹を見せることが出来たり、通勤電車の耐えがたい時間を快適に過ごせたり、将来の不安を和らげてくれたり、老いていくことへの不安を解消してくれると言われたら、そうしたものにお金を払う価値があると思うのではないでしょうか?
この時代、子どもの安全を守るためのお金なら親は喜んで払うのではないでしょうか?それで愛する子どもの安全を少しでも確保できるのなら、それを提供しない方が親にとって、怒りを感じるのではないでしょうか。ですから、顧客の痛みや悩みを、その立場から考えて、出来るだけリストアップするのが大切です。
顧客の本音を知りたかったら、
最後に、顧客の本音を知りたかったら、全く顧客になりきって、顧客目線であらゆる場面で感じる不満や心配を口に出してみるということでした。このようにすることで、売り手側からは全く見えなかった、顧客側の本心を見いだすことが出来ます。
そうすれば、顧客に新鮮な驚きさえ与え、深く満足させることが出来るような方法はないだろうか?と考えることが出来ます。こうした取り組みをする会社やお店が増えたら、顧客の側からすると、毎日が本当に楽しく、新鮮でワクワクするものになるのではないでしょうか?
何であれ、ビジネスに関わるのであれば、人を喜ばせたり、笑顔になってもらうことを目標にするべきだと思います。この点で真剣に取り組むことが出来れば、利益だけでなく、自身の深い満足も、関わっているビジネスから得ることが出来ます。それがビジネスの最終ゴールではないでしょうか。
何十年とビジネスを続けてきて、最後に振り返って、「いろいろな苦労があって、苦しい時がほとんどだったけれど、人に感謝され、人の笑顔をたくさん見てこれた。その瞬間が、仕事をしてきたこの何十年間の最高の報酬だ」と思えるほうが、ただ「何をしてきたかよくわからないけど、とにかくお金を稼いで生きてきた」と思うより楽しいと思います。
自分の今いる状況で、人の痛みを取り除き、喜びを与えるために自分に出来ることをぜひ、考えていただけたらと思います。