ポジショニングマップの作り方の要点を解説!

商品作成

From:松本泰二

前回は、事例に見るポジショニング&リポジショニングについてお話しました。有利なポジショニングを得るためにはポジショニングマップの作成が欠かせません。市場を分析して既存の競合品の位置を知り、空白地帯に斬り込む力を持った自社商品を開発するためには、このポジショニングマップが大きな武器となるのです。

また、伸び悩んでいる商品に新たな力を与えるべくリポジショニングを考察する上でも、ポジショニングマップが大きな手助けとなります。ここでは、ポジショニングマップを作成するための要点をいくつか解説してみましょう。

 

ポジショニングマップは、縦軸と横軸の選択がキー

ポジショニングマップは基準となるべく縦軸と横軸を設定します。そして、既存の商品がどの位置にあるかを一目で分かるようにしたものですが、一番大切なのが基準となる縦軸と横軸です。

 

ここでは、分かりやすくするためスイーツを例にとってみましょう。

スイーツを買うときの消費者の購買動機となるのは、ここでは価格と美味しさということにしておきます。横軸が価格です。左へ行くほど安く、逆に右方向は高くなります。それに対して、縦軸は上が美味しさ、下はそれほどでもない普及品になります。

この2本の軸を中央で交差させてください。すると、右上のスペースには有名なスイーツが密集します。高くて美味しい商品群です。それに比べて、左下は味はまあまあだけれど比較的値段が安いスイーツが配置されるはずです。

値段と味という軸を設定するとこういうマップになります。価格が高いのに味は今いちという商品はまず考えられないでしょうから、マップの右下はこの際、無視しましょう。

 

残るのは左上のスペースです。価格が安いのに美味しい。これが可能になれば消費者に受け入れられる確率は高くなります。事実、そういう経営方針で諸経費を極力抑えて美味しいスイーツを届け、急成長を遂げた企業があります。

それがシャトレーゼです。スイーツの花形売場であるデパ地下にはまったく出店せず、また広告宣伝費も使っていません。商品はすべて自動化された自社工場で生産し、原価率70%という驚くべき商品も多数存在しています。

 

縦軸を女性&男性にすると…

シャトレーゼの例では縦軸に美味しさを取り上げましたが、これを女性&男性にしてみるとスイーツのポジショニングマップはどうなるでしょう? 上が女性、下が男性です。考えるまでもなく、価格の上下に関係なく商品群は上のスペースに片寄ります。スイーツは女性・子どもが食べるものだというイメージが定着しているからです。

しかし、近年になってスイーツ男子という言葉が広まってきています。文字通りスイーツが好きな男性という意味で、彼らが集まるとスイーツを食べて新商品に関する話題で盛り上がるのだそうです。

 

従来、スイーツは町のケーキ屋さん、またはデパ地下や食品スーパーでしか販売されていませんでした。いずれも女性の城であり、男性は近寄り難いエリアだったのです。そんな状況に風穴を開けたのがコンビニでした。

コンビニなら一人で気軽になんでも買うことができます。それまでは気恥ずかしくてスイーツを買えなかった男性が、コンビニというフィールドを得て堂々とレジに持ち込むことができるようになったのです。

折りから、コンビニでは差別化の一環としてオリジナルスイーツに力を入れていました。他店にはない安くて美味しいスイーツが店頭に並び、スイーツ男子の勢力は一挙に増強されることになります。

 

男性向けのスイーツが登場

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もう一度、スイーツのポジショニングマップを思い浮かべてください。縦軸に男女を設定すると、男性のエリアである下半分はまったくの空白です。もちろん、女性向けの商品でも男性は抵抗なく購入していたのですが、この下半分に目をつけたのがファミリーマートです。

俺のティラミスなど「俺の」を冠したスイーツを次々と打ち出し、いずれもヒットして、入荷したもののすぐ売り切れという状態が続いています。このシリーズの特徴は甘さを抑えたことと、男性が満足できるようなたっぷりのボリュームを提供しているところにあります。

 

俺の丼プリンは文字通り丼サイズで、それでいて価格は298円と手頃です。俺のエクレアの場合、通常商品の約1.5倍の量があり、それでいて230円。パッケージに印刷されている食べ方の心得第一条には「大口を開けてかぶりつくこと」とあります。まさに、男性向けのスイーツを象徴しているといっていいでしょう。

一方、高級路線を行く男性向きのスイーツも登場しています。店舗はシックな内装で落ち着いた雰囲気に仕上げ、男性一人でも入店しやすくしています。スイーツはやはり甘さ控えめで、ボリュームがある点も俺のシリーズと共通しています。アルコールの相手として開発されたチーズケーキをベースとしたスイーツも登場しています。

 

ポジショニングマップは、軸の選定が難しい

スイーツのポジショニングマップを作成したとき、最初の例では価格と美味しさの軸を取り上げました。実は、これはあまりいい例とはいえなかったのです。なぜなら、往々にして価格と品質は比例するものだからです。価格が高い=品質がよい(食品の場合は美味しい)というパターンは現在では常識であり、価格が高いのに品質が悪ければ厳しい競争社会で生き抜くことは不可能です。

 

では、どんな軸を設定すればいいのでしょう? 

これがポジショニングする際の最も大きな課題となります。さまざまな軸で検討した結果、最終的に二つの軸を決定したにしても、それらに共通しているのは購買決定要因でなければならないということです。いくつかの商品を比較検討して最後の一つを選んだとき、消費者はなにを基準にしたかということです。

ほとんどの商品は価格が大きな選定基準になっていますから、横軸に価格を設定しておけば概ね間違いはありません。しかし、縦軸はファクターが非常に多く、選定は非常に難しくなります。それでいて、選び方一つでポジショニング戦略が大きく左右されますから、軸の設定をないがしろにはできないわけです。

 

ビジネスマンには欠かせないネクタイの場合はどうでしょう? クールビズが定着してさすがに真夏はネクタイを締めるビジネスマンは少なくなりましたが、それでもネクタイは自分を主張する大きな武器であるのは間違いありません。

 

では、あなたはネクタイを購入するとき、なにを基準にして選んでいますか?

とにかく安ければいいというのであれば100円均一でも販売されています。もちろん、100均ネクタイを締めている人もいるでしょう。しかし、大多数ではありません。むしろ、少数派です。

 

多くのビジネスマンは手頃な価格で、あとは色と柄、生地の質感、流行を気にする人であれば幅も選定基準になるでしょう。プレゼントにする場合はブランドも基準になります。

さらに、ネクタイだけを独立させて選定する人も少ないはずです。手持ちのスーツやシャツとの組み合わせも考えますから、ネクタイ業者は現在どんなスーツやシャツが人気があるのかも考慮に入れて新作を開発する必要があるのです。

 

間違いやすい軸設定

ポジショニングマップで設定する軸は購買決定要因でなければならないと前述しました。これをしばしば、自社の得意分野と置き違えてしまう傾向が見られます。競合他社に比べてこのような技術が優れていて、自社商品はその特徴を十分発揮しているという事実は確実かもしれません。ですが、それが果たして消費者が最終的に選ぶ際の基準にしているかどうかは別の問題です。

小さい排気量で高馬力を絞り出す車は確かに性能は優れているといえるでしょう。価格も手頃なところで抑えることが可能かもしれません。

 

しかし、女性用の車として適当でしょうか?ファミリーカーに向いているとはいえないでしょう。女性用としてなら小回りが利いて扱いやすく、メンテも比較的楽な車の方が向いています。ファミリーカーとしてなら居住性が一番で、次に燃費や価格が来るでしょう。

 

といって、中堅層のビジネスマンに魅力があるとも思えません。彼らがスポーティな車を欲するならそこそこの排気量の車を選ぶはずです。

このように、商品の特性やターゲットによって購買決定要因は変化します。技術的に優れている商品だからといって、それが消費者の購買動機につながるとは限らないのです。つながる場合もあるし、つながらないケースもあります。その点をしっかりと見極める必要があります。

 

軸設定のヒント…逆転の発想

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ポジショニングマップを作るとき、ユニークな軸を設定すると空白地帯を見つけやすい例として男性向けのスイーツを紹介しましたが、そのようなユニークな軸の発見方法の一つに逆転の発想があります。逆転とは反対の視点に立つことです。

従来、コンタクトレンズは高価で、いかに長期間快適に使用できるかという課題を追求してきました。特にソフトコンタクトの場合は破れやすいという弱点があり、それをカバーするために耐久性をアップさせなければならないという大きな命題があったわけです。また、定期的なクリーニングが必要で、それにかかる手間や洗浄剤の開発・コストダウンという問題が常について回っていました。

 

使い捨てコンタクトレンズを開発したジョンソン&ジョンソンはもともと使い捨て医療用品のメーカーであり、使い捨てに対する意識には馴染んでいました。

殺菌消毒して何度も使用していたソフトコンタクトを使い捨てにすれば、それまで取り組まざるを得なかったさまざまな課題がクリアできます。常に清潔なものを使いたいという潔癖な日本人にマッチするものでもあったのです。

もっとも、大事にして長く使うものというイメージが強かったコンタクトレンズを使い捨てにするという意識を普及させるには、簡単にはいかなかったはずです。地道な努力を続けた結果、現在は使い捨てコンタクトレンズが主流となっています。

 

軸設定のヒント…範囲を狭めて専門化する

市場を広くすればより多くの人に受け入れられ、それだけ大量に売れる。マス・セールを目的とすればそう考えるのは当然です。しかし、現実を見るとそのような商品はあふれ返っています。その中で独自性を出して消費者にアピールする手法の一つとして、マーケットを狭めて専門性を強く打ち出すというのがあります。

現在、書籍や雑誌の売れ行きは右肩下がりで閉店を余儀なくされている書店が増える一方です。これには少子化、ネットの普及、古書店の増加、娯楽としての読書の価値低下などさまざまな理由があるのですが、そのような状況の中で奮闘している書店があります。

共通しているのは従来には見られなかったスタイルの営業を取り入れており、ビールやコーヒーを飲むことができる書店も登場しています。

 

軸設定のヒントとして紹介したいのは、この中で専門化を進めてそれなりの客層をつかんでいる書店です。例えば「食」というテーマで品揃えしている書店があります。

和・洋・中のレシピはもとより、エッセイ集や危険な添加物の解説本、さらには食器や調理器具、食卓を構成する家具など、とにかく食べ物に関する本はすべて揃えますという経営者の意志がはっきり読み取れます。当然、雑誌類もその系統しか販売していません。

 

同じように、旅をテーマとした書店もあります。国内・国外を問わずさまざまな地域の情報をはじめとして乗り物、宿泊所、お勧め観光地、旅行グッズ、パスポートやビザの申請方法、トラブル解決法などなどありとあらゆる旅行本が並んでいます。

 

美術書の専門店もあります。海外で発刊されたものから古書、最新のデザイン本が揃っています。市場規模としては小さいけれど確実に需要は存在しています。自主制作本や私家本、少部数限定本など通常の流通ルートに乗らない本ばかりを集めた書店もあります。

 

軸設定のヒント…意外なものと組み合わせる

空白地帯を見つける軸設定ヒントの三番目として意外なものとの組み合わせを見てみましょう。例として取り上げるのは焼肉とスイーツです。焼肉屋のポジショニングマップを考えるとき、価格以外には肉の種類の豊富さ、店内の雰囲気、スタッフの応対ぶりなどが店を選択するときの決定要因になります。スイーツというのはなかなか思いつきません。

そこを突いたのが牛角です。この焼肉チェーンはスタッフのきめ細かな応対を代表とする利用者目線で急速に業績を伸ばしてきました。半個室にして他の利用客の視線を気にすることなく飲食でき、また洒落た雰囲気で女性の人気を勝ち取っています。

サイドメニューも豊富で、デザートとしてのスイーツはレベルが高く、牛角に行けば必ずスイーツを食べるというファンも生まれました。それを受けて、コンビニでも牛角スイーツを販売するようになりました。

 

焼肉とスイーツの組み合わせは食べ放題焼肉店でも見られます。こちらはファミリーレストランの延長線上にあり、握り鮨やカレーライスもありますから、スイーツの存在はそれほど突飛ではないといっていいでしょう。

さらに、近年では回転寿司チェーンも上質のスイーツを販売しています。寿司を食べずにスイーツが目的で来店する利用客もいるほどです。

 

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