市場に受け入れられて生き残るためには?

マインド(考え方)

From:松本泰二

最近数年間の世界情勢は凄まじく変化しています。政治の面では、シリアの内戦で避難民がヨーロッパ各国に逃れて様々なトラブルが発生したり、イスラム過激派組織ISILが各国でテロを引き起こして多数の犠牲者が出たり、イギリスが国民投票でEU脱退を決めたり、中国が南シナ海で人工島を造成して実効支配を進め、東シナ海でも領有権を主張して周辺国と緊張を高めるなど、枚挙にいとまがないほど様々な情勢が変化しています。

また、自然現象でも東日本大震災を始めニュージーランドやインドネシアでも大地震が発生するなどで、想定もしなかった大被害が出ています。

 

グローバルな変化が起きている

ビジネスの分野においても、グローバルな変化が起きています。アメリカの住宅バブルの崩壊に伴うサブプライムローンの焦げ付きに端を発した証券会社リーマン・ブラザーズの破綻はアメリカ国内の経済問題に留まらず全世界に影響し、EU債務問題やギリシャ破綻危機等の原因にもなっています。

日本では直接の影響は少なかったのですが、超円高と株安が進み大幅な景気後退が長引くことになり、新卒者が就職できないなどで大騒ぎになりました。

 

このようなリーマンショックからようやく立ち直り円安も進んで景気も上向いてきたところでしたが、イギリスの国民投票でEU離脱が決定された影響で再び急激な円高を引き起こし経済の今後が不透明になっています。

 

技術革新も益々急展開

また、技術革新も益々急展開しており、世界を仰臥していた商品もあっという間に他に取って替わられています。シャープは液晶テレビをいち早く発売して「亀山モデル」として世界的なブランドを確立しましたが、過剰な設備投影とリーマンショック後の液晶テレビの売れ行き減少が重なったほか、中国や韓国との価格競争に遅れをとる等で、倒産の危機に陥り、台湾の企業と業務提携しました。

液晶テレビの主要パーツである液晶ディスプレイも、4Kや8Kなど高画質化の競争が激しく、さらに、有機ELディスプレイのような新装置の開発競争も激しくなっています。

 

流通関連では、アマゾンや楽天市場などのネット販売が盛んになってきて、消費者が本や電器製品を購入する際に店舗に行って品物を確認しますが、実際に購入する段階では各種通販の価格を比較しながら注文するようになってきました。

配達システムも変革しつつあり、場所によっては注文した当日に届いたり、日時を指定できるなど消費者にとって便利になってきました。このため、町の本屋さんや電気屋さんが次々と廃業するなど、地方都市でかつては賑わった商店街がシャッター通りになるなど様変わりしています。

一方、AEONなどの巨大駐車場を備えたショッピングモールが地価の安い郊外に出店するなど、マイカーで日用品の買い物をする消費者を取り込んでいます。

 

あと10年で仕事の約半分が機械に奪われる?

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英国オックスフォード大学の人工知能の研究者マイケル・A・オズボーン准教授らの論文「雇用の未来―コンピュータ化によって仕事は失われるのか」が話題となっています。論文によるとあと10年で人間が行う仕事の約半分が機械(コンピュータ)に奪われるとのことです。

 

例えば、レストランの案内係り、集金人、電話オペレーターなどの単純な業務が消えるのは想定できます。一方、医療報告、患者個人の症状や遺伝子などを分析して医療診断を行ったり、裁判に向けて大量の判例や弁論趣意書を調べる業務などは知的作業と思われますが、最近はビッグデータを活用してコンピューターによって行われるようになって、これに関連する仕事も消えるというのは驚くばかりです。

 

また、記憶媒体やインターネットの検索機能の発達により、学校の先生も単なる知識の伝達しか出来ない先生は必要でなくなってきます。このようなIT技術の進歩はゲームの世界で良く分かります。

比較的ルールが単純なオセロやチェスなどはかなり前からコンピューターが勝っていましたが、その後将棋が攻略され、つい最近、膨大な手順があると言われる囲碁のプロ棋士が敗れたのです。

 

上述したような10年後の世界を予測するのは一般人にはなかなか難しいのですが、過去の変化から流れを想像できるところがあります。これまでの日本の変化を見てみると、1960年代は新幹線や高速道路が整備されテレビ、洗濯機や冷蔵庫などの家電製品も急速に一般家庭に普及して高度経済成長が続きました。

 

基幹産業の変化

また、この頃の基幹産業は造船、製鉄、石油化学や自動車などの重工業で、受注高が世界一となったり輸出を大幅に伸ばして重厚長大と呼ばれました。

その後、石油危機などで高度経済成長が鈍ってきた頃には韓国が造船受注世界一になるなどの追い上げがあったり、産業構造が半導体関連のエレクトロニクス、ソフトウェアなどの軽薄短小に移って、重工業関連の会社は統合合併や新分野への転換を行うなどを迫られました。

 

このように、日本の基幹産業が変化していますが、これまで継続して安定的に成長してきたのが自動車産業です。高度成長期に自動車の大衆化によって飛躍的に成長し、主要な自動車会社だけでも14社ほどあり、最近は一部合併、系列化されたりしていますが、一つの国でこれだけのメーカーがあるのは珍しいとも言われてきました。

しかしながら、最近は若者の自動車離れがあったり、カーシェリングサービスを利用しマイカーを持たない等で自動車を巡る環境が変わりつつあります。このような状況で、将来生き残れる自動車会社は業界第1位の「トヨタ自動車」とスバルブランドの「富士重工」の2社との予測をした報告があります。

 

世界的にシェアのトップ争いをしているトヨタ自動車は別格として、富士重工の名前が出てきたのは驚きです。売上げでは日産、ホンダやスズキ自動車の方が富士重工より上なのです。

この予測では、これまでの売上げやシェアあるいは実績の優位性にすがっていては後続企業に追い抜かれ、存続も危ぶまれる時代が来ることを示唆しています。

 

電気自動車やIT化された自動運転車なども考慮した予測では、業界をリードするのはITシステムの頭脳を開発した会社で、トヨタ自動車でもグーグルなどの傘下に入るとさえ述べている報告もあります。

 

このような状況で、富士重工の名前が挙がったのはどうしてでしょうか?

同社の前身は中島飛行機で戦前は著名な軍用機を造っていました。日本の敗戦とともに航空機の研究、製造が禁止されたため、リヤカーや乳母車など様々な物を造って凌いだこともありましたが、1953年に富士重工業としてスタートし自動車産業を中心に、航空宇宙や産業機器等の事業を展開してきました。

 

このような経緯で、航空機を造った技術者の精神が受け継がれ、新会社スタート後間もなく発売された軽自動車「スバル360」は一世を風靡し、その後も重心が低くて安定性があり振動も少ない水平対向エンジンや雪道に強い4輪駆動車などの独自の技術を磨き上げてスバルというブランドを確立しました。

さらに、最近では時代を先取りして自動車の知能化を推し進め、危険を予防し衝突を回避または被害を軽減させるアイサイトを開発して話題になっています。

 

また、2016年2月23日に公表されたアメリカの消費者団体専門誌「コンシューマ・リポート」の自動車ブランドの総合ランキングで、アウディに次いでスバルが2位になりました。スバルというブランドにこだわる「スバリスト」と呼ばれる熱狂的なファンが多くいるのも納得できます。

 

このように、時代の変化に応じて開発環境は変わりますが、独自技術にこだわり、アイデンティティを保ち続けて軸のぶれない姿勢が市場に生き残ることに繋がったのです。この企業アイデンティティーを見失わない限り、10年、20年先までも市場に受け入れられて生き残るのだと思います。