From:松本泰二
1960〜1970年代にアメリカ合衆国では零細規模のブリュワリーが相次いで誕生しました。既存のビールに物足りなさを感じていたビール愛好者たちが自らの手で自分が望むクラフトビールを醸造したのです。現在、アメリカではそのクラフトビールが全体の11%を占めるほどの規模に成長しています。とはいえ、彼らの歩みは決して順調ではありませんでした。大手ビールメーカーとの戦いにおいて彼らはどうやって勝利することができたのでしょう。
アメリカンクラフトビールの誕生
皆さん、クラフトビールはよくご存じでしょう。我が国では「地ビール」の名称で親しまれています。1994年、酒税法が改正され、それまでは年間に2000キロリットル以上製造しなければ認められなかったビールが、60キロリットルにまで引き下げられました。そのおかげで、少ないロットでしか生産できない全国の中小メーカーが次々に誕生したのです。
アメリカ合衆国ではこの20〜30年前にクラフトビールが誕生しています。アメリカといえばバドワイザー、ハイネケンが代表ですが、総じて味が軽い(よくいえばマイルドです)という特徴があります。
ケンタッキーを中心に生産されているバーボン・ウイスキーと同じくトウモロコシなどの穀物を使用しているためで、飲みやすい反面、コクを求めるビールファンにとっては物足りず、自分が飲みたい味を追求する若者を中心にクラフトビールの醸造業者が次々と登場しました。それがアメリカにおけるクラフトビールの歴史の第一歩といっていいでしょう。
とはいえ、彼らの歩みは決して順調ではありませんでした。我が国の状況と同じく、大手メーカーはマスメディアを通じてバンバン広告を出して価格を主導します。認知度の低いクラフトビールは消えてはまた誕生することを繰り返していました。
それを乗り越えて現在の安定した立場を確立した原因は三つあるといわれています。口コミ、社会貢献、そしてエクスペリエンス(体験)です。以下、それらを説明しましょう。
井戸端会議から始まった口コミ
かつて、庶民の住居である長屋では、炊事・洗濯に共同の井戸を利用していました。そのため、主婦は井戸の周囲に集まり、それぞれの用事をしながら雑談に花を咲かせていました。その様をからかいのニュアンスを含めて生まれたのが「井戸端会議」です。
その内容は世間話が中心の軽いものであり、他愛のないウワサ話に興じた彼女たちの笑い声が聞こえてきそうです。口コミ情報もその話題の一つです。いうまでもなく、口コミとはマスコミに対比する用語であり、優れた評論家であると同時にジャーナリストでもあった大宅壮一氏の造語といわれています。
マスコミに比べると口コミは伝わるエリアが非常に狭いというデメリットがありますが、信頼性は非常に高いのがメリットです。マスコミの代表であるTV、新聞、雑誌などの信頼性は60%前後であるのに対して、口コミのそれは80%を超えるというデータがあります。また、現代版の口コミであるソーシャルメディアも70%と高い数字が確認されています。
マスコミに乗って伝わってくる商品情報はプラス要素に限られているのが通常です。マイナス面が表に出ることはまずありません。その点、口コミはプラス要素もマイナス要素もごちゃ混ぜです。
しかし、消費者が本当に知りたいものが詰まっています。消費者が流すのは消費者が知りたい情報です。消費者が反応を示すのは当然でしょう。従来のマスコミに乗った商品情報は信頼性を失い、広告のパワーが落ちているのは確実です。
現代版の口コミであるソーシャルメディア
本来、口コミは個人から個人に伝わるものでした。家族や友人、知人という間でのコミュニケーションが中心で、その範囲は学校や勤務先、当人が所属するサークルという狭い範囲に限られていました。
しかし、現代版の口コミであるソーシャルメディアは規模が非常に広がっています。ツイッターやFacebookを利用すれば北海道や沖縄はおろか、ヨーロッパや南米、アフリカにも瞬時に到達します。しかも、その方法というのが非常に手軽で簡単なのです。たった今食べたラーメンが美味しかったら、スマホを使って「○○のラーメン美味しい!」とつぶやくだけでいいのです(まさか本当につぶやいたりはしないでしょうね)。
逆の場合も同様です。掃除機を使っている途中で火を噴いたりすれば、そのようなニュースはすぐ伝わります。「あ、あそこのラーメンは私も食べたことがある。本当に美味しかった!」とか「煙が出たから使うのやめた」などという口コミが追随すると同種のコメントが集中し、友人から友人へと際限もなく広がっていきます。特に、マイナスの話題は早く広がるという傾向があるようです。
クラフトビールもソーシャルメディアに乗って広がりました。それまでは一面識もなかったクラフトビールのファンがつながって盛り上がり、売上を伸ばしていったのです。
現在、アメリカのビール市場は約12兆円といわれています。その規模は横ばいですが、クラフトビールは確実に増加しています。2014年度のシェアは11%にも達しています。
口コミが広がる下地があった
クラフトビールはどうして口コミに乗って広がったのでしょう? どんなものでも口コミに乗るわけではありません。それなりに情報が拡散する理由があったはずです。
それを知るには当時のアメリカにおけるビール市場を理解する必要があります。バドワイザーやハイネケンを飲んだことがある人は知っているでしょうが、アメリカで大きなシェアを確保しているビールの特徴はマイルドさにあります。前述したように、軽くて飲みやすいというのが一般的な印象です。しかし、ビールの本場であるドイツ人は総じて酷評します。ビール本来の旨味が感じられないというのです。
クラフトビールの醸造を始めた創業者たちもまさにこの点に不満があり、自分が満足できるビールを飲みたいという理由からブリュワリー(醸造所)を始めました。しかも、アメリカンタイプのマイルドなビールに不満を抱いていたビール愛好家は、実は彼らだけではなかったのです。
大手メーカーが作るビールはどこも同じ味だという現実に飽き飽きしていた消費者は、新しい味を提供するクラフトビールの登場に両手を上げて歓迎したのです。まずはそのような背景があったことを認識してください。
口コミが発生する原因とは
それまでアメリカンタイプのビールを飲み慣れていた人が初めてクラフトビールを飲んだとき、どんな印象を受けたでしょうか? 多分「なに! これ……」という驚きだったのではないでしょうか。苦みは強いけれどコクがあり、しっかりと自分を主張する、それまで出会ったものとは似て非なるビール。
よくも悪くもインパクトを与えたろうことは予想できます。中にはマイルドなビールを好む人もいたでしょうから、全員が全員というわけにはいかないにしても、物足りないと感じていた人は口コミの発信者となった可能性が高いと思われます。
このように、口コミが新たに発信される原因となるのは個人の経験というケースが大半です。インパクトを与えるほどの驚きや感動、共感、発見などを経験すると他人に伝えたくなります。
家族や友人といった周囲の人に話したいではいられないのです。クラフトビールを旨いと感じた人が誰かに伝え、それを聞いた人が自分でも飲んでみて、それをまた誰かに伝える。その連鎖でクラフトビールの存在は広く知られるところとなりました。
2種類の「いいね!」
Facebookでは他人の投稿を見ると「いいね!」ボタンをクリックします。必ずしもクリックしないといけないわけではないのですが、親しい人の投稿だと内容の善し悪しに関係なく「いいね!」をクリックしてしまいます。一方、あまり親しくない人でもその内容のレベルが高く、感動すると「いいね!」をクリックします。
もうお分かりでしょう。前者の「いいね!」はそこまでにとどまります。対して、後者はシェアされることでますます拡散されていきます。これと同じことで、口コミも知り合いの範囲でとどまる場合とどんどん広まっていくケースがあります。
より広く拡散させたいと思えばその内容にパワーが必要です。クラフトビールにはまさしくそのパワーがあったのです。
バイラルマーケティングとは
口コミを利用してサービスや商品情報を流し、販売促進につなげる方法をバイラルマーケティングといいます。バイラルとは「ウイルス性の」という意味で、ウイルスとは生きている細胞を利用してどんどん増殖していきます。口コミを介して情報がどんどん広がる様をたとえてこう呼ばれるようになりました。
これには次のようなメリットがあります。
◇情報の信頼性が高い。
この点についてはすでに解説しました。プラス要素しか流さない一方的な広告に比べて消費者の口コミは信頼性が高く、それだけ情報の価値は高いと思われています。効果は大きいのです。
◇経費がかからない。
マスコミを利用した広告は莫大な費用が必要です。しかし、口コミを利用したマーケティングならそれよりははるかに安い経費で済みます。立ち上げたばかりの小さな会社にとっては非常にありがたい存在といえるでしょう。
◇ターゲットが絞られる。
口コミ情報は対象先を自動的に選びます。子どもや赤ん坊に関する話題は独身の若者には伝わりません。伝える側は相手が興味を引くであろうことしか伝えようとしないからです。同様に、ビジネスマン向きの情報は主婦には伝わりません。費用対効果は非常に高いとみていいでしょう。
口コミをどのように生かすか?
口コミは消費者が独自に発生させるもの。したがって、企業としては手が及ぶ領域ではない。そう考えてはいないでしょうか。だとしたら、バイラルマーケティングという言葉は生まれなかったでしょう。マーケティングとはビジネス活動の一環です。ただ待つだけでは活動とはいいません。次に、口コミを発生させるための方法をいくつか紹介しましょう。
◇王様の耳はロバの耳
皆さんはイソップ童話の一つである「王様の耳はロバの耳」をご存じでしょう。王様は生まれつき耳がロバのように長く、その事実をひた隠しにしていました。しかし、一人だけその事実を知っていた人物がいました。それが王様専属の床屋でした。しかし、その床屋、口を閉ざすことに耐えられず穴を掘ってその中に向かって「王様の耳はロバの耳」と何度も叫んだのです。
床屋はそれで満足したのですが、埋められた穴から葦が伸びると風が吹くたびに「王様の耳はロバの耳」とささやくようになりました。おかげでその事実は国民のみんなが知るところとなったという話です。
このように、驚くような事実を知ったとき、人は誰かに話さずにはいられないという性格を持っています。つまり、話さずにはいられない体験をしてもらえば口コミにつながる可能性は非常に高いといえるでしょう。
といって、驚くほどの性能を持った商品がそうそう開発されることはありません。びっくりするほど美味しい料理が今の時代にいきなり登場するケースも少ないでしょう。口コミを発生させるだけのパワーを持った商品やサービスがゴロゴロ転がっているわけではありません。
◇見た目と現実のギャップ
とはいえ、まったくその方法がないわけではないのです。この料理はどんな味だとか、この映画の内容はどの程度だとか、人は実際に体験する前にある程度の情報を頼りにイメージを形成しています。そのイメージを上回る(または下回る)結果を演出すれば驚きにつながり、十分口コミを発生させる原因となり得ます。
見た目は冴えない女の子がコスプレの女王だった、どこにでもいそうな中年のおじさんがノーベル賞を獲得したなどそのような例は珍しくありません。消費者が予想するだろうレベルよりも上の結果を出せばいいのであり、国民すべてが驚嘆するほどの高いものである必要はありません。
ただし、あまりに高レベルな「見た目」を形成すると、ギャップを出すのに苦労することになります。その辺りは難しいところです。
◇オンリーワンをアピールする
現代はモノがあふれ返っています。似たような商品・サービスはすぐ手が届くところにいくらでもありますから、その中で自社の商品をアピールするのは非常に難しいのが現実です。これは商品のコンセプトやブランディングとも関わってきますが、その特徴の筆頭にオンリーワンを訴えるという方法があります。
この商品はある条件の元では唯一の存在であることをアピールすれば口コミに乗りやすくなります。ナンバーワンでもその効果は期待できますが、その立場を維持するのは少々面倒です。他のメーカーが同じ戦略を立てるとナンバーワンの座は奪われる可能性が高くなります。奪い返すことは不可能ではありませんが、いたちごっこになる可能性があります。
それよりは独自の技術を生かしたオンリーワンの方が安泰でしょう。それに、ナンバーワンよりオンリーワンを大事にしようという機運が盛り上がっている現在です。オンリーワンという言葉に共感を覚える消費者も多いと思われます。
◇ストーリーマーケティング
ストーリーとは物語です。「奇跡のリンゴ」という無農薬リンゴの開発ストーリーは映画になり、日本中に感動を呼び起こしました。新商品開発の陰には程度の差こそあれ、それなりの感動を生むストーリーがあります。それをブログやYouTubeなどで流し、企業のファンになってもらうのです。
商品の特徴を伝えるのではなく、このようなストーリーで共感を得てもらい、こんな会社が作っている商品ならぜひ使ってみたいという方向に持っていくのがストーリーマーケティングという手法です。これは、口コミを通じて購入に結びついた消費者のリピートにもつながります。
◇自らも発信する
口コミが自然発生をするのを待つだけではなく、自分でもSNSを利用して情報を発信しなくてはなりません。それを見た受け手が触発されて発信する側になることも十分あり得るからです。
ただし、これには注意が必要です。受け手に「ステマ」と判断されると、それ以降その商品に関する情報はすべて無視されることになります。ステマとはステルスマーケティングの略称で、企業が消費者になりすまして投稿し、情報を拡散させる方法です。
昔はサクラと呼ばれていました。新しくオープンした店舗にお客が少なくては話題にならず、その後の売上に悪影響を与えるため、お客を装ったサクラを何人も訪れさせたものです。それと同じで、数人の投稿者に一般消費者のフリをして体験談を投稿してもらう(もちろんプラスの評価を)のがステマです。
自分の立場を明らかにしてストレートに商品を紹介するというのは、SNSを利用した広告に違いありません。しかし、そのカテゴリーに興味のある人が見ればなんらかの反応を起こします。口コミにつながる可能性は決して少なくありません。
組織は社会のために存在する
ピーター・ドラッカーを改めて紹介する必要はないでしょう。この人が登場して経営学という分野が確立され、その後のビジネスに多大な影響を与えた経営学者です。
彼が著した「マネジメント」には次のようなことが書かれています。
「組織が存在するのはそれ自体のためではない。社会的な目的を実現し、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たすためである」
つまり、組織とは利益を上げるのが目的ではなく、社会をよりよくし、人々を幸せにするために存在するというのです。
そんなことを聞くと、「なに言ってるんだ。会社は売上を伸ばして社員に給与を払わないと消えてしまうんだ。社会をよりよくするなんて考えたこともないぞ」という経営者もいるでしょう。
しかし、少し考えてみてください。あなたの会社が作っている商品、あなたのお店が提供している料理やサービスを必要としている消費者がいます。そして、ニーズを満たされることによって彼らは満足します。これは立派な社会貢献です。
あなたの会社で働いている社員のことを考えてみてください。
給与が支払われて彼らの家族は幸せな生活を送っています。意識する・しないにかかわらず、企業は社会に貢献しているのです。
すべての組織は人を幸せにして社会をよりよいものにするために存在しています。ドラッカーはこう言っています。「そのようなことをまったく考えない組織は修道院とギャングだけだ」クラフトビールのブリュワリーの一つであるノースコースト・ブリューイングは、有名なジャズのイベントの主要スポンサーをしています。
また、アメリカの著名なジャズピアニストであるセロニアス・モンクをフィーチャーしたビール「ブラザー・セロニアス・ベルジャンアビィエール」が売れると、その売上の一部が若いミュージシャン育成のために寄付されるそうです。
ちなみに、このノースコースト・ブリューイングは国内・国際の大会で70以上の賞を獲得したそうです。商品が持つ独自のパワーに加えて消費者の強力なバックアップがあったこともうなずけます。
エクスペリエンスマーケティング
消費者は商品が欲しいのではない。その商品を使う・味わうことで楽しいひとときを経験したいのだ。エクスペリエンスマーケティングはそこから出発しています。エクスペリエンスとは経験・体験という意味です。これまでは商品を売るということを目的として、そこに到るまでのプロセスを重視してきました。
しかし、今はその先、商品を入手した消費者がどのような満足を得るかまでを考えないといけない時代です。類似商品が市場にあふれている中で自社の商品を購入してもらうには、それを手に入れるとどんな「幸せ」が待っているかを訴える必要があるというものです。
アメリカンクラフトビールの創成期、ビールファンはクラフトビールを支援することで二つの体験をしています。個性的なビールを味わいながら豊かな時間を過ごすというのが一つ。もう一つは、大メーカーに対抗して苦戦を続けているクラフトビールを応援することでした。
ネットを通じてクラフトビールファンがつながり、みんなでビールを飲もうというイベントも大盛況で、ファンは楽しい体験をしたのです。
もう一つのエクスペリエンスマーケティング
エクスペリエンスマーケティングにはもう一つ意味があります。それは新しい体験を産み出す商品の開発です。テレビゲームやホームビデオ、電子レンジといった商品がそれで、それまでにない新しい体験を作り出しました。
現在ではゲームといえばスマホやパソコン、ゲーム専用機を使ったものを指しますが、それらが登場する以前はトランプのようなカードゲーム、ダーツやビリヤード、ダイスなどの道具を使ったものが主体でした。そういう状況でテレビゲームを産み出したのですから、多くの消費者が飛びついたのも無理はありません。
それまで花札やトランプを製造していた任天堂は1983年にファミリーコンピュータを開発。そして、その2年後にゲームソフトであるスーパーマリオブラザーズを発売し、世界的なヒット作となりました。これは最も売れたゲームソフトとしてギネスに認定されることとなりました。
グランドキリンの挑戦
アルコールを飲まない人でもキリンの名はよく知っているでしょう。ビール以外にもキリンレモンや午後の紅茶などのソフトドリンクはよく知られています。ウイスキーやワイン、チューハイなども製造しています。
では、グランドキリンというビールをご存じでしょうか。これは大メーカーがクラフトビールと同じような方法で醸造しているビール、つまりキリンのクラフトビールといっていいでしょう。
ビール業界は2000年に入って苦闘を続けています。高齢化が進み、若者は以前のようにはビールを飲まなくなっており、1994年をピークに売上は年々減少を続けているからです。期待されていた第3のビールもノンアルコールビールも伸び悩んでいるという状況です。
そのような中でビールメーカー各社はプレミアムという名称の高級ビールに活路を見いだそうとしています。グランドキリンもその一環で、十六夜の月、梟の森、夜間飛行といった独特のネーミング戦略をとっています。
広告はせず「びあのわ」で体験を共有
味はもとより、グランドキリンは独自の路線を歩んでいます。まず挙げられるのがCMを流さないことです。一時的に流したこともありますが、すぐに中止しています。その理由は、マスに訴えて販売が伸びるわけではないと判断したからです。グランドキリンは20〜30代の男性をターゲットとしており、幅広い年代に受け入れてもらいたい一般的なビールとは違うのです。
CMの代わりに行ったのがイベントです。グランドキリンのファンが集うコミュニティを立ち上げて仲間と一緒に飲み、語り、楽しむというイベントを行い、さまざまな体験を共有してもらったのです。コミュニティの名称は「びあのわ」です。ビールの輪という意味です。
これまで実施したイベントは農業体験や寄席、ビアマグ作りとさまざまです。本当に伝えたいターゲットに口コミで伝え、熱い体験を通じてグランドキリンのよさを知らしめるという戦略なのです。
販売はコンビニ限定
グランドキリンの特徴的な戦略のもう一つは、販売チャネルをコンビニに絞った点にあります。2012年に初めて発売したときはセブンイレブンに限定されていました。そして、2015年からは全国のコンビニに販路を拡大しています。
若い男性が足を運びやすいのは量販店ではなくコンビニです。しかも、コンビニは定価販売が原則です。そういうメリットを狙ったものだったのでしょう。
しかし、4年間のコンビニ限定販売の後、2016年9月からは量販店でも販売されるようになりました。これはコンビニでの販売数が安定し、これ以上の伸びが期待できなくなったためと思われます。
とはいえ、グランドキリンの基本的な戦略である期間限定販売という路線は崩しておらず、他のビールとの一線を画した状態は継続しています。キリンでは今後さらなるイベントの開催を予定しているそうです。その成り行きに注目しましょう。