小さな会社の集客戦略

マーケティング

どんなにニーズにマッチした商品を開発しても、本当に美味しい料理を安く提供しても、それを消費者に伝えないと売上は伸びません。ここにあなたが望むものがあるのですよと大声で言わなければ伝わりません。

しかも、なんと言うか、どんな言い方をするかでその言葉の信頼性は左右されます。集客は商品開発と並んで大きなテーマなのです。

 

AIDAの法則

1920年代、アメリカのS・R・ホールという人がAIDMA(アイドマ)の法則を提唱しました。これは広告が与える消費者心理のステップを示すもので、アテンション(注意)、インタレスト(興味)、デザイア(欲求)、メモリー(記憶)、アクション(行動)の頭文字を取ったものです。広告を見た消費者は注意を喚起され、興味を持ち、それが欲しいと思い、記憶し、購入するというものです。

我が国にこの考え方が導入されるとすぐさま普及しましたが、発祥地であるアメリカではむしろAIDA(アイダ)の法則の方が受け入れられ、現在でもたびたび取り上げられています。AIDMAに比較するとメモリーが欠けており、それはもう必要ないというのが全体の考え方のようです。

 

「アテンション」が大切

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AIDMAにしろAIDAにしろ、一番最初にあるのはアテンションです。まず認知してもらう。これがなければ次のステップであるインタレスト、デザイア、アクションに移ることができません。それなのに、この部分の努力が見えない企業が非常に多いという現状があります。

この部分にもう少し踏み込んでみましょう。購買行動のトップに位置するにもかかわらず、なぜ企業や個人商店はアテンションをおろそこかにするのか? 理由の一つとして結果が非常に見えにくいというのがあります。

商品、店を認知してもらうために数回なんらかの形で広告を出したとします。それでも売れない、来店者が増えないという結果が出たとき、その理由はなんだと判断するでしょう? 

認知の方法である広告がよくなかったのか、商品そのものの魅力がないのか、外食店ならそこに来店するほどのメリットがないと判断したのか、答えはいろいろ考えられますし、これだと断定することも不可能です。アテンションを徹底させる努力が薄れるのも理解できないわけではありません。

「アテンション」は難しい

社名そのものがよく知られていない小さな会社が新商品を出したとき、消費者はどのような反応を見せるでしょう? 決してすぐには飛びつきません。そこには快楽原理が働くからです。ご存じのように、人間には苦痛を避けて快楽を得ようとする行動原理があります。

 

よく知らない商品に対して代金を払う。これは苦痛です。苦労して獲得した財産の一部を失うのですから。一般に、人間は快楽を得るよりも苦痛を避ける方を優先するといわれています。

そのため、しばしば保守的な行動を取りがちです。馴染みのある店、使ったことのある商品へ流れ、新商品にはなかなか手を伸ばそうとしません。新商品、新店舗のアテンションが難しい理由はこれがメインだといっていいでしょう。

 

電気がない村に住んでいたらどうしますか?

世界にはまだ11億人もの人が電気の通っていないエリアで生活をしているそうです。しかし、夜には暗くなりますから明かりが必要です。発展途上国ではあっても子どもたちは学校に通い、勉強をしていますから明かりがないと困ります。

あなたが一家を支えないといけない立場になったとき、どのようにして電気を入手するでしょうか。以前は自転車タイプの発電機でバッテリーを充電していたようですが、現在は太陽光や風力を利用した小規模の発電機がかなり普及したそうです。

また、常に充電器を持ち歩き、機会があるごとに公共機関などでバッテリーを充電するという方法もあります。

 

これをお客さんに置き換えてみます。オープンした当初はなんとか足を運んでもらおうとしていろいろな努力をします。自転車のペダルを踏んで発電しているのと似たような状況です。効率はあまりよくないのですが、どのような大規模チェーン店も創業時には同じような努力をしてきています。

ここで我が国の状況を見てください。電気なんてどこの家庭にも通じていますから、スイッチ一つで明かりが灯ります。テレビや冷蔵庫、洗濯機、クーラーも稼働し、快適な生活を維持してくれます。そのためには電気を家庭に送り届けるための施設があり、作業を担当する人たちがいるわけです。

 

水力・火力・原子力発電所があってそれを送る送電線があり、電柱があります。強い風が吹いても大雨が降ってもそのシステムは稼働しています。電気を利用するのに苦労することはありません。

では、お客さんの来店を促すためのこのようなシステムはできないのでしょうか? 不可能ではありません。維持する努力は必要ですが、お客さんは次から次へとやって来ます。オープン当初のペダルを漕いでいたような努力に比べると雲泥の差といえます。目指すのはここなのです。

 

現状はどの段階ですか?

集客は難しい、集客努力の成果が判断しづらいと考えている企業は、電気にたとえたときどのような努力をしているでしょう。さすがにペダルを漕ぐ段階は過ぎているでしょうが、システムの確立にはほど遠いのではないでしょうか。

となれば、先ほど紹介した充電器を持ち歩いて適宜バッテリーを満たしているということになります。集客の努力を特にすることはなく、場当たり的に紹介してもらったとか、たまたま先方から問い合わせてきたとか、そういうパターンが多い状態です。それではいつまで経っても改善されません。

手を上げてこっちに来てくださいと呼び込むのか、来てくれないのならこちらから出向いて行くのか、それは業態によって異なりますが、いずれにしてもなんらかのアクションは欠かせません。

 

まずは広く露出する

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ここで冒頭に紹介したAIDAに戻ります。アテンションです。商品なり店舗なりを露出して認知してもらうことが最優先課題です。そのための方法はたくさんあります。チラシだけでも新聞折り込み、ポスティング、街頭での配布があります。

郵便を利用したDM、ネットを使ったウェブ、メール、イベントとしてのセミナーや展示会、さらには電話、ファックス、昔ながらの新聞・ラジオ・雑誌広告、看板、交通広告、プレスリリースなどなど。ネットを利用した露出については現在ではさまざまな種類が登場していますが、ここでは割愛します。ただし、次のような事実があることは知っておく必要があります。

 

商品認知のきっかけとなるメディアとしてテレビは現在でもトップですが、その後の検討・判断の時点ではウェブを利用する消費者が圧倒的に増えているのです。自社のサイトで懇切丁寧に説明しなければ購買行動につながらない可能性があると思っていいでしょう。

 

さて、どんな形で認知してもらうとしても、大切なのはターゲットを明確化させることで、その消費者に対して最も適切なメディアを選択しなければなりません。家計をやりくりする主婦に最もアピールするのは片面1色刷りの折り込みチラシでしょう。

キャリアウーマンに化粧品をアピールしようと思えばシックなデザインの雑誌広告(彼女たちが読む確率が高い雑誌であることはいうまでもありません)でしょう。エグゼクティブ向けの商品であれば新聞、経済雑誌などでしょうか。ネットも有効でしょう。

そして、そのような戦略を立てるために必要なのが、ターゲットを具体的な人物として仮定するペルソナという考え方です。

 

消費者を具体的なモデルとして捕らえる

ペルソナとは本来は仮面という意味ですが、マーケティングの世界ではモデルユーザーを指します。つまり、ターゲットとする消費者像をモデル化してその人物のニーズを満たすためにはどうすればいいかを考えるマーケティングの手法です。

年齢や性別、家庭・社会環境など数十にも及ぶ項目を仮定することでさまざまな部門の担当者がターゲットに対するイメージを共有し、彼らの想像力を喚起するというのが目的です。

 

アサヒビールの発泡酒・クールドラフトは、このようにして作り上げられたペルソナが満足できるものとして開発されました。発売されたのは2009年で、当時は第3のビールが売上を伸ばし、発泡酒はどんどん落ち込んでいました。

しかし、都内に住む44歳の自営業者で1歳下の妻、16歳の長男、13歳の長女との4人家族と細かく設定したペルソナのニーズを満たすべく開発されたクールドラフトは3か月で6000万本を売り上げたのです。

 

メッセージを伝える

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ターゲットとメディアが決まれば、次はどんなメッセージを伝えるかという段階に進みます。メッセージはメディアに左右される部分はありますが、基本的にはイメージ(ビジュアル)と文字(言葉)です。

 

特に大事なのは文字です。どんなに美しい写真を使ってもどれほどの美人を掲載しても、残念ながらあまり集客には影響しません。画質の悪い写真であっても卵1パック10円とあれば飛びつきます。行列を作っててでも買おうとします。それが快楽の原理です。

したがって、キャッチコピーの作成・選定には最大限の努力を払ってください。膨大な量の情報や広告に晒されて、消費者は読まない・信じない・買わないという三つのバリヤーで身を守っています。それを打ち破るのがキャッチなのです。

 

キャッチとボディ

広告のコピー(文章)にはキャッチとボディがあります。人目を引く大きな文字がキャッチコピーで、一番上にレイアウトされることが多いためヘッドコピーともいわれています。商品や店舗の紹介・説明はその下に小さく書かれていて、これがボディコピーになります。

キャッチコピーで引きつけてボディコピーを読んでもらうというのが狙いであり、キャッチに反応してくれなかったらボディにも目を通してくれず、その広告はまったく効果がなかったということになります。

 

「短い」「簡単」「引っかかる」

キャッチを見てボディを読むかどうかを決める人は80%を超えるというデータもあります。その大切なキャッチコピーには読まれるための三大要素があります。「短い」「簡単」「引っかかる」です。

 

だらだらと長いものはキャッチには向きません(中にはそれを売りにするキャッチもありますが)。簡単とは分かりやすいと解釈していいでしょう。なにを言いたいのか分からない難解なものではメッセージは伝わりません。

牛丼の吉野家のキャッチは「はやい・やすい・うまい」です。短くて簡潔で分かりやすく、すぐ覚えられます。「小さなクルマ、大きな未来」はスズキ自動車です。この二つは商品ではなく社名ですが、短い・簡単の好例です。

 

引っかかる

最後の引っかかるとは、心に引っかかる言葉という意味です。パターン化できないので難しいのですが、たとえば「泥棒は悪いことです」ではなにも引っかかりません。当たり前だからです。しかし、「泥棒は、ときには役に立つかも」とすればどうでしょう。十分引っかかるでしょう。

このように常識の逆をいく、反社会的な内容などを使うと心に引っかかりやすくなります。「私服をこやせ」はレナウンのキャッチです。自分の服と私の腹を引っかけていて、見る人をして一瞬、「?」とさせます。

 

「家は路上に放置されている」SECOM、「私には好きでもない仕事をしているあなたの方が狂っているように見える」小学館、「注意しない大人を見ながら、みんな大人になっていく」日本たばこ産業、「吸われて。燃えて。捨てられて。たばこじゃなければ泣いている」日本たばこ産業、「明日、世界が滅びるとしたら、今日、なにをやるだろう」セイコー。

いかがですか。心に引っかかるからすっと通り過ぎてしまわない例をいくつか紹介しました。あなたも引っかかりを感じたのではないでしょうか。

 

興味を引き、覚えやすいネーミング

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キャッチコピーと並んで大切なのがネーミングです。世の中にはさまざまな商品紹介ページがありますが、その中でトップに位置するのが商品名です。

特に、物体としての商品があるわけではなく、サービスという実体のない商品の場合、消費者はネーミングからイメージするわけですから、どんなものか分からなくては素通りされてしまいます。つまり、商品名=キャッチというわけです。

 

ネーミングでヒットした好例としてしばしば引用されるのが伊藤園の「お〜いお茶」です。「缶煎茶」という商品名ではまったく売れず、そもそも煎茶の読み方さえ知らない若者が多いことが判明して、お〜いお茶に変更したおかげで売上が6倍に増えたという話です。

それも、缶煎茶時代のTVCMに登場した俳優がCFの中で「お〜いお茶」というシーンがあり、それを商品名にしたというのは有名なエピソードです。

 

数百ものキーワードを絞り出す

ここでネーミングのヒントをいくつか紹介したいと思うのですが、商品名、店名、社名を考え出すときに最も重要なのはキーワードです。商品から産み出されるイメージ、これを使用するとどのような快適さが得られるのか、どんな生活が生まれるのかといった魅力を表す言葉です。

10や20ではお話になりません。最低でも100から200は考えてみてください。このとき、制限を設けると難しくなります。垣根は一切取り払います。キーワードが一つでも出てくるとそれから連想されるものが次から次へと浮かんでくるはずです。

 

そして、もうこれ以上は絶対に無理という段階で、今度は絞り込みにかけます。明らかに見当外れのキーワードは次々に消去して、これはどうだろうというグレーゾーンは残します。ある程度絞り込んだら次はグループ分けしてみてください。すると、似たような傾向のものに分類できるはずです。

そこで、今度はグループ単位で消去していきます。最後に残ったグループにキーワードがいくつ残っているかは分かりません。消去したグループの中にどこか引っかかるキーワードがある場合も珍しくありません。それは別枠にとどめておき、じっくり熟成してみてください。

 

キーワードからネーミングへ

キーワードをそのまま商品名にしてもキャッチコピーにはなりません。キャッチの原則である「短い・簡単・引っかかる」を思い出してください。ネーミングはキャッチでもあるのですから、これは十分当てはまります(クレアおばさんのシチューなどの一連のシリーズはやや長い気がしますが、分かりやすいことがそれを補っているのでしょう)。

 

引っかかりのあるネーミングにするための手法はいくつかあります。まず紹介したいのは一字変換です。馴染みのある言葉を一文字変えるだけで引っかかりが生まれます。通勤快速というサラリーマンの利用する通勤用電車を一文字変えて、通勤快足というソックスを売り出したのがレナウンです。また、アサヒは同じネーミングのビジネスシューズを開発し、どちらもヒット商品となりました。

 

おにぎりを「おにぎらず」としたのも同じ手法です。サンドイッチのようにご飯の間に具を挟み(ライスサンドと呼ぶそうです)、それを海苔でくるんだだけのお手軽料理ですが、弁当が非常に豪華に見えます。商品ではなくレシピの一種であるためヒット商品とはいえませんが、大流行しました。

キーワードに接頭語、または接尾語を加えてインパクトを与える方法もあります。ガリガリだけでは引っかかりませんが、ガリガリ君ならアピールします。

 

二つのキーワードを組み合わせるパターンもよく見られます。新しいところではヨーグリーナがあります。欧米の女性の名前に多い「リーナ」とヨーグルトをつないだもので、小売店から追加注文が相次いだせいで安定供給ができないと判断したサントリーは出荷停止という処置を取りました。

イメージをそのまま商品名にしたものもあります。粘着テープでゴミやホコリを取るコロコロはまさにそれです。芯が折れないシャープペンシルのオレンズ(ぺんてる)、オ・レーヌシールド(プラチナ)もその部類に含めていいでしょう。梱包する際によく用いられる気泡緩衝材はプチプチという商品名にしておけばもっと市民権を得たのかもしれません。

 

キーワードを外国語に翻訳する

ネーミングのヒントの最後に、外国語に訳してみるという例を取り上げておきましょう。近年はさまざまな外国語に翻訳してくれるサイトがあります。例えば、風はフランス語ではヴァンです。イタリア語にするヴェントになります。

 

2015年にヒットした商品の一つにハンディ洗濯機のCOTON(コトン)があります。食事中に付けたシミをすぐ落とすことができる超小型の洗濯マシンなのですが、このCOTONはフランス語で綿の意味です。英語のコットンはあまりにも一般すぎて商品名には使えません。しかし、フランス語なら十分使えます。しかも、お洒落な雰囲気を漂わせています。

この逆のパターンもあります。「未来」では商品名としてインパクトがありません。しかし、MIRAIなら斬新で、最先端の技術をイメージさせます。トヨタが開発したこの水素を使って発電する電気自動車は大きな注目を集めています。

 

ランチェスターの法則

1914年というと第一次世界大戦が勃発した年ですが、この年にF・ランチエスターという人が戦争で勝つための法則を発表しました。その後、この法則はビジネスモデルに活用され、現在でもさまざまな分野でその影響は生きています。

ここで注目したいのは、その法則の中で強者と弱者の戦い方を扱った部分です。強者を大企業、弱者を中小企業に置き換えると、その法則は中小企業の経営戦略に非常に有効となります。

ランチェスターの法則には第一と第二があり、第一を見ると兵士の数が同じ場合は能力が高く高性能の武器を持った方が有利になるとあります。第二の法則は兵士の数に規定はありません。すると数が多い方が圧倒的に有利になります。

 

ここから読み取れるのは、中小企業の場合、一対一の戦いに持ち込んだ方が得策だということです。ターゲットを絞って狭い範囲で戦えば相手が大企業でも恐れるに足らずなのです。

中小企業の経営者はこの考え方を基本に置き、集客も同様の戦略で押し進めていかなければなりません。大企業を脱サラして起業した経営者がしばしば陥るのがこの部分です。大企業で長い間働き、集客戦略に携わっていたビジネスマンは自分の経験を踏まえて、同じやり方で展開しようとします。しかし、まず通用しないと思っていいでしょう。

 

バーミキュラの事例

皆さんはバーミキュラという鍋をご存じでしょうか?

愛知ドビーという会社が開発した鋳物ホーロー鍋で本体と蓋の間に隙間がなく、非常に気密性が高いためこれで調理すると食材の旨味を逃がさないと評判になり、一時は予約してから1年以上待たないと手に入らないほど注文が殺到しました。

 

この新商品を認知してもらうために取ったのが、まず主婦や料理研究家の中でもイノベーター的な立場に立つ人への浸透でした。レストランのシェフなどにもサンプルを送り、試用を頼んでいます。その結果をブログやSNSなどで公表してもらい、口コミでどんどん売上を伸ばしています。

 

この例のように、初期は地道な方法で一歩ずつ集客を心がけるのが中小企業の集客戦略です。ペダルを漕いで発電するのです。できるだけたくさんの人にブログやメルマガで発信してもらうというのは時間がかかりますが、単なる広告よりも信頼性が高く、確実に効果が上がります。チラシやDMなどは次の段階です。